中級編 第6回: 財務諸表分析の具体的な手法
財務諸表は、企業の経営状況を数字で把握するための強力なツールですが、その数字をどう読み解き、活用するかが重要です。今回は、財務諸表を使った具体的な分析手法として、「比較分析」「トレンド分析」「財務比率分析」を詳しく解説します。これらを活用すれば、企業の現状を正確に把握し、課題を見つけ、改善策を打ち出すことが可能になります。
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1. 比較分析: 経営状態を客観視する
比較分析は、自社の財務データを他の基準と比較して評価する方法です。単年度の数値を見るだけでは見えない「強み」や「課題」を明確にできます。
(1) 前年比分析
前年の数値と比較することで、収益や費用の増減、利益率の変化などを把握します。
① 目的
• 成長率や改善の進捗状況を確認。
• 増減の要因を分析して、改善策を導き出す。
② 分析例
• 売上高の前年比
【売上高の前年比(%)】
=(今年の売上 - 前年の売上高)/ 前年の売上高 × 100
o 例: 今年の売上高が1,200万円、前年が1,000万円の場合、前年比は20%増加。
o ポイント: 増加要因(新規顧客の獲得、単価アップなど)を分析し、再現可能な施策を強化します。
• 費用の前年比
o 費用が増加している場合、無駄な支出やコスト削減の余地を確認します。
• 利益の前年比
o 売上増加に対して利益率が下がっている場合は、費用増加が原因である可能性を調査。
(2) ベンチマーク分析
自社のデータを同業他社や業界平均と比較することで、競争力や市場でのポジションを把握します。
① 目的
• 自社の競争力や課題を明確にする。
• 業界の動向や標準値を知る。
② 分析例
• 売上総利益率の比較
売上総利益率が業界平均より低い場合、仕入れコストや販売効率の見直しが必要です。
• 自己資本比率の比較
自己資本比率が低ければ、財務の安定性が課題である可能性があります。
(3) 比較分析の活用ポイント
• 業界平均や競合他社のデータを活用する。
• 単純な比較にとどまらず、背景要因を分析する。
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2. トレンド分析: 時系列での変化を追う
トレンド分析は、数年間の財務データを時系列で比較し、変化のパターンや長期的な傾向を明らかにする手法です。
(1) トレンド分析の目的
• 収益性や財務構造の長期的な傾向を把握。
• 異常値や課題の進行状況を確認。
(2) 分析例
• 売上高のトレンド
3~5年間の売上高をグラフ化し、成長傾向や減少傾向を確認します。
o 例: 売上高が1,000万円→1,200万円→1,500万円と増加している場合、成長戦略が順調であると判断。
• 利益のトレンド
営業利益や純利益の推移を確認し、コスト構造や効率性の変化を分析します。
• 借入金のトレンド
借入金の増減を時系列で追い、財務負担が増加していないかをチェックします。
(3) トレンド分析の活用ポイント
• グラフやチャートを使って視覚化する。
• 異常値(急激な変動)の背景を深掘りする。
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3. 財務比率分析: 企業の健康状態をチェック
財務比率分析は、財務諸表の数値をもとにさまざまな指標を算出し、企業の収益性や安定性、効率性を評価する手法です。
(1) 収益性の指標
収益性の指標は、企業がどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示します。
① 売上総利益率
• 計算式: 売上総利益率=売上総利益/売上高×100
• 意味: 商品やサービスそのものの収益性を示します。
• 目安: 業界によるが、30~50%が一般的。
② 営業利益率
• 計算式: 営業利益率=営業利益/売上高×100
• 意味: 本業の収益性を示します。
• 目安: 10%以上であれば高収益とされます。
③ 当期純利益率
• 計算式: 当期純利益率=当期純利益/売上高×100
• 意味: 最終的な収益力を示します。
• 目安: 5%以上が目標。
(2) 安全性の指標
安全性の指標は、企業が財務的にどれだけ安定しているかを示します。
① 自己資本比率
• 計算式: 自己資本比率=純資産/総資産×100
• 意味: 会社がどれだけ借入に依存せず運営できているかを示します。
• 目安: 50%以上が望ましい。
② 流動比率
• 計算式: 流動比率=流動資産/流動負債×100
• 意味: 短期的な支払い能力を示します。
• 目安: 100%以上が健全。
(3) 効率性の指標
効率性の指標は、企業が資産をどれだけ効果的に活用しているかを示します。
① 総資産回転率
• 計算式: 総資産回転率=売上高/総資産
• 意味: 会社の資産がどれだけ効率的に売上を生み出しているかを示します。
• 目安: 業界平均と比較。
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4. 分析結果を経営に活かす方法
(1) 課題の特定
• 比較分析やトレンド分析で明らかになった課題をリストアップします。
• 財務比率分析を使って、問題の優先順位をつけます。
(2) 改善策の検討
• 例1: 売上総利益率が低い → 仕入れコスト削減や価格改定を検討。
• 例2: 流動比率が低い → 売掛金の回収サイクルを短縮。
(3) 定期的なモニタリング
• 財務諸表を定期的に確認し、改善策の効果を測定します。
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まとめ
財務諸表分析は、経営の現状を把握し、改善策を導き出すための重要なツールです。比較分析、トレンド分析、財務比率分析を組み合わせることで、企業の健康状態を多角的に評価できます。これらの手法を活用し、持続可能な成長を目指しましょう。
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