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著作権(第14回)未来の著作権:ブロックチェーン、NFT、そしてデジタル資産の保護

未来の著作権:ブロックチェーン、NFT、そしてデジタル資産の保護
はじめに
 前回は、AIが生成するコンテンツと著作権の関係について解説しました。今回は、著作権の未来を考える上で注目すべき技術であるブロックチェーンとNFT(ノンファンジブルトークン)、そしてこれらの技術がデジタル資産の保護にどのような可能性をもたらすのかについて考察していきます。
 デジタル化が進む現代において、著作物を含む様々なコンテンツがデジタルデータとして扱われるようになり、その管理や権利保護のあり方が問われています。ブロックチェーンとNFTは、これらの課題に対する新たな解決策を提供する可能性を秘めており、著作権の概念や運用に大きな変革をもたらすかもしれません。本稿では、これらの技術の概要、著作権との関連性、そしてデジタル資産保護の未来について展望します。


1. ブロックチェーンと著作権
(1)ブロックチェーンの概要
 ブロックチェーンは、複数の参加者によって分散管理される、改ざんが極めて困難な分散型台帳技術です。取引の記録(ブロック)が暗号化され、時間順に鎖(チェーン)のように連結されることで、高い透明性と信頼性を確保します。
(2)著作権管理への応用
 ブロックチェーンの特性は、著作権の管理において以下のような応用が期待されています。
 ① 著作権情報の記録と追跡:著作物の登録情報、権利者情報、ライセンス情報などをブロックチェーンに記録することで、透明性の高い著作権管理システムを構築できます。著作物の利用履歴を追跡することも可能になり、不正利用の発見や権利侵害の監視に役立つ可能性があります。 ② スマートコントラクトによる自動化:スマートコントラクトとは、ブロックチェーン上で自動的に実行される契約のことです。著作物の利用条件や対価などをスマートコントラクトに記述することで、ライセンス契約の締結や使用料の支払いを自動化できます。これにより、著作権管理の効率化とコスト削減が期待できます。 ③ 真正性の証明:ブロックチェーンに著作物のハッシュ値(デジタル署名)を記録することで、その著作物の真正性や改ざんされていないことを証明できます。これは、デジタルアートや写真などのデジタルコンテンツの価値を保護する上で重要となります。
(3)課題
 ブロックチェーン技術はまだ発展途上にあり、著作権管理への本格的な応用にはいくつかの課題も存在します。
 ① スケーラビリティ:大量の著作物情報を効率的に記録・処理するための技術的な課題があります。 ② 標準化:異なるブロックチェーンプラットフォーム間での互換性や、著作権情報の標準化が必要です。 ③ 法制度との整合性:既存の著作権法制度との整合性や、ブロックチェーン上の記録の法的効力などが明確化される必要があります。


2. NFT(ノンファンジブルトークン)とデジタル資産の保護
(1)NFTの概要
 NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)は、ブロックチェーン上で発行される、唯一無二のデジタル資産です。デジタルアート、音楽、動画、ゲームアイテム、仮想空間の土地など、様々なデジタルデータに固有の価値を付与し、所有権を明確にすることができます。
(2)著作物との関連性
 NFTは、デジタル著作物の新たな流通・取引の形態として注目されています。
 ① デジタルアートの所有権証明:デジタルアート作品をNFTとして発行することで、その唯一性と所有権を証明し、収集や取引を可能にします。これにより、デジタルアーティストは自身の作品に価値を付与し、収益を得る新たな機会を創出できます。 ② コンテンツの限定販売:音楽、動画、電子書籍などのデジタルコンテンツをNFTとして限定販売することで、希少性を高め、新たな収益モデルを構築できます。購入者は、単なる利用権ではなく、所有権を持つことができます。 ③ ロイヤリティの自動徴収:NFTにロイヤリティ設定を組み込むことで、二次流通以降の取引においても、クリエイターに一定の収益が自動的に還元される仕組みを構築できます。これは、クリエイターの持続的な活動を支援する上で重要な要素となります。
(3)課題
 NFTの普及には、以下のような課題も存在します。
 ① 環境負荷:一部のブロックチェーン技術は、大量のエネルギーを消費するため、環境への負荷が懸念されています。 ② 詐欺や偽造:NFT市場の急速な拡大に伴い、偽物のNFTや詐欺的な取引も発生しています。 ③ 法的解釈の不明確さ:NFTの法的性質(著作物との関係、所有権の範囲など)については、まだ明確な法的解釈が確立されていません。 ④ アクセシビリティ:NFTの取得や管理には、一定の技術的な知識が必要です。


3. ブロックチェーンとNFTがもたらす著作権の未来
 ブロックチェーンとNFTは、従来の著作権管理やデジタル資産の保護における課題を克服し、新たな可能性を切り開く潜在力を持っています。
(1)透明性と信頼性の向上
 ブロックチェーンによる著作権情報の記録は、権利関係の透明性を高め、紛争の予防に繋がる可能性があります。改ざんが困難な特性は、情報の信頼性を高め、権利者の保護を強化します。
(2)新たな収益モデルの創出
 NFTは、デジタルコンテンツに新たな価値を付与し、クリエイターに直接的な収益機会を提供します。ロイヤリティ機能は、二次流通における収益還元を可能にし、クリエイターの経済的な持続性を高めます。
(3)より柔軟なライセンス管理
 スマートコントラクトを活用することで、著作物の利用条件を細かく設定し、自動的に管理することが可能になります。これにより、より柔軟で効率的なライセンス管理が実現する可能性があります。
(4)デジタル資産の新たな価値創造
 NFTは、デジタルアートやコレクタブルアイテムといった新たなデジタル資産の価値を創造し、所有という概念をデジタル領域に拡張します。これにより、クリエイターは新たな表現方法や収益化の道を探求できます。


4. 法制度の整備と課題
 ブロックチェーンとNFTがもたらす新たな可能性を実現するためには、法制度の整備が不可欠です。
(1)NFTの法的性質の明確化
 NFTが著作物とどのように関連するのか、所有権の範囲、取引の法的効力などを明確にする必要があります。
(2)スマートコントラクトの法的拘束力
 スマートコントラクトの契約としての法的拘束力や、紛争解決の仕組みなどを整備する必要があります。
(3)偽造・詐欺対策
 NFT市場における偽造品や詐欺的な取引に対する対策を強化する必要があります。
(4)国際的な連携
 ブロックチェーンとNFTは国境を越えて利用されるため、国際的なルール作りや連携が重要となります。


むすび
 今回は、未来の著作権のあり方を考える上で重要な技術であるブロックチェーンとNFT、そしてこれらの技術がデジタル資産の保護にどのような可能性をもたらすのかについて考察しました。これらの技術は、著作権管理の透明性と効率性を高め、クリエイターに新たな収益機会を提供し、デジタル資産に新たな価値を創造する可能性を秘めています。
 しかし、その普及と発展には、技術的な課題の克服、法制度の整備、そして社会的な理解の深化が必要です。ブロックチェーンとNFTが、著作権を含む知的財産権の未来をどのように変革していくのか、今後の動向に注目していく必要があります。
 次回のテーマは「著作権契約の基礎:ライセンス、譲渡、利用許諾とは?」です。著作物の利用に関する契約の基本について、ライセンス、譲渡、利用許諾の違いや注意点などを解説していきます。

2025年08月01日

著作権(第13回)AIと著作権:自動生成コンテンツの権利問題

第13回 AIと著作権:自動生成コンテンツの権利問題


はじめに
 前回は、国際的な著作権の違いと保護について解説しました。今回は、近年急速に発展している人工知能(AI)が生成するコンテンツと著作権の関係について掘り下げていきます。
 AI技術の進化により、文章、音楽、画像、プログラムなど、様々な種類のコンテンツをAIが自動的に生成することが可能になってきました。しかし、これらのAI生成物について、誰が著作権を持つのか、学習に用いられた既存の著作物との関係はどうなるのかなど、多くの法的課題が浮上しています。本稿では、AIによるコンテンツ生成の現状、著作権法上の基本的な考え方、そして今後の法改正の可能性について解説していきます。


1. AIによるコンテンツ生成の現状
(1)多様なAI生成コンテンツ
 現在のAI技術は、特定の指示や学習データに基づいて、人間が創作したかのような高度なコンテンツを生成することができます。
 ① テキスト生成AI:小説、記事、詩、脚本、翻訳などを自動生成します。 ② 音楽生成AI:楽曲、効果音、BGMなどを自動生成します。 ③ 画像生成AI:イラスト、写真、絵画などを自動生成します。 ④ プログラム生成AI:ソフトウェアのコードの一部または全部を自動生成します。
(2)AI生成コンテンツの利用拡大
 AIによって生成されたコンテンツは、広告、エンターテインメント、教育、研究など、様々な分野で利用が拡大しています。その効率性や創造性において、人間のクリエイターをサポートする、あるいは代替する可能性も示唆されています。


2. 著作権法上の基本的な考え方
 日本の著作権法における著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)と定義されています。この定義に照らし合わせると、AIが生成したコンテンツの著作権の帰属については、いくつかの議論があります。
(1)AIは「著作者」になれるか?
 現行の著作権法では、「著作者」は人間であることを前提としています。AIは、プログラムに基づいてデータ処理を行うツールであり、自らの意思や感情に基づいて創作活動を行っているとは考えられていません。したがって、AI自身が著作物の著作者となることは、現時点では難しいと考えられています。
(2)AIの利用者の著作権
 AIを利用してコンテンツを生成した場合、その生成物の著作権が誰に帰属するのかが問題となります。一般的には、AIに対して具体的な指示を与え、最終的な生成物を選択・調整するなど、創作的な関与を行った人間が著作者となると考えられています。
 ① 単なる指示の場合:AIにキーワードや簡単な指示を与えただけで生成されたコンテンツについては、利用者の創作性が乏しいと判断され、著作物として保護されない、または保護されても範囲が限定的となる可能性があります。 ② 選択・調整を行った場合:AIが生成した複数の候補から選択したり、生成されたコンテンツに大幅な修正や加工を加えたりするなど、利用者の創作的な判断や表現が色濃く反映されている場合は、利用者が著作者となると考えられます。
(3)学習データと著作権侵害
 AIがコンテンツを生成する際には、大量の既存の著作物を学習データとして利用することが一般的です。この学習データの利用が、著作権侵害にあたるかどうかも重要な問題です。
 ① 学習データの利用:著作権法第30条の4では、情報解析の目的で行われる著作物の利用(複製、公衆送信など)について、一定の条件の下で権利者の許諾なしに行うことができると規定されています。AIの学習はこの情報解析に該当すると考えられており、適法に行われる限り、著作権侵害にはあたらないと解釈されています。 ② 生成物の類似性:ただし、AIが学習データに依拠して生成したコンテンツが、既存の著作物と類似する場合、著作権侵害となる可能性は否定できません。特に、特定の著作物を模倣するよう意図的にAIを操作した場合などは、注意が必要です。


3. 各国における議論と動向
A I生成コンテンツの著作権に関する議論は、世界各国で活発に行われています。
(1)アメリカ
 アメリカでは、著作権の対象となるのは人間の著作者によるオリジナルの著作物であるという原則が明確に示されています。著作権庁は、AIのみによって生成された画像については著作権登録を認めないという判断を示しています。
(2)EU
 EUでは、著作権法は人間の著作者による創作物を保護することを前提としていますが、AI生成物の権利帰属については、国によって解釈が分かれています。著作権法とは異なる新たな権利を創設する議論も存在します。
(3)イギリス
 イギリスでは、コンピュータが著作物を生成した場合、その生成に必要な手配をした者が著作者となるとする規定が存在します(著作権、意匠及び特許法第9条第3項)。ただし、この規定がAIによる高度な自動生成にそのまま適用できるかについては議論があります。


4. 今後の法改正の可能性
 AI技術の急速な発展を踏まえ、AI生成コンテンツの著作権に関する法制度の見直しは、今後不可避となる可能性があります。
(1)新たな保護の枠組み
 AI生成物の特性を踏まえ、現行の著作権法とは異なる新たな保護の枠組みを設けるという議論があります。例えば、AIの開発者や利用者に、一定の範囲で権利を付与するなどの案が考えられます。
(2)学習データの利用ルールの明確化
 AIの学習における著作物の利用範囲や条件について、より明確なルールを定めることが求められています。権利者への適切な対価還元についても議論が必要となるでしょう。
(3)侵害責任の所在
 AIが生成したコンテンツが既存の著作物を侵害した場合、誰が責任を負うのか(AIの開発者、利用者、AI自体か)についても、法的な解釈やルールの整備が課題となります。
(4)国際的な連携
 AI技術は国境を越えて発展しているため、AI生成コンテンツの著作権に関する国際的な議論や連携が不可欠です。各国が協調して、適切なルール作りを進めていく必要があります。


むすび
 今回は、AIと著作権、特にAIが自動生成するコンテンツの権利問題について解説しました。現時点では、AI自身が著作権を持つことは難しいと考えられていますが、AIの利用者が創作的に関与した場合には、その利用者に著作権が認められる可能性があります。学習データの利用や生成物の類似性など、解決すべき課題は多く、今後の法制度の動向が注目されます。
 AI技術の発展は、著作権制度に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。クリエイター、事業者、そして法律家が協力して、技術の進歩と著作権保護のバランスの取れた未来を築いていくことが重要となるでしょう。
次回のテーマは「未来の著作権:ブロックチェーン、NFT、そしてデジタル資産の保護」です。ブロックチェーン技術やNFT(ノンファンジブルトークン)が、著作権の管理やデジタル資産の保護にどのような影響を与える可能性があるのか、その未来の展望について考察していきます。

2025年07月25日

著作権(第12回)国際的な著作権の違いと保護:海外ではどう守られるのか?

第12回 国際的な著作権の違いと保護:海外ではどう守られるのか?
はじめに
 前回は、自身の著作権が侵害された場合の対処法について解説しました。今回は、グローバル化が進む現代において重要なテーマである「国際的な著作権の違いと保護」について掘り下げていきます。
 著作権の保護は、各国が定める法律に基づいて行われるため、その制度や内容は国によって異なります。海外で自身の著作物を保護するためには、各国の著作権法の違いを理解し、適切な対策を講じる必要があります。また、国際的な著作権保護の枠組みを知ることも重要です。本稿では、主要な国際条約、各国における著作権法の主な違い、そして海外で著作権を保護するための対策について解説します。


1. 主要な国際著作権条約
 著作権の国際的な保護の基礎となっているのは、主に以下の条約です。
(1)ベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)
 ① 概要:1886年に成立した、著作権に関する最も重要な国際条約の一つです。多くの国が加盟しており、著作物の国際的な保護の原則を定めています。 ② 主要な原則: * 内国民待遇の原則: 加盟国の国民の著作物は、他の加盟国においても自国民の著作物と同様に保護されます。 * 無方式主義の原則: 著作権の保護は、登録などの特別な手続きを必要とせず、著作物が創作された時点で自動的に発生します。 * 保護期間の最低基準: 個人の著作者の著作物については著作者の生存期間および死後50年間、映画の著作物については公表後50年間など、保護期間の最低基準を定めています。
(2)万国著作権条約(ユネスコ著作権条約)
 ① 概要:ベルヌ条約に加盟していない国も含む、より広範な国々が加盟する著作権条約です。ベルヌ条約よりも柔軟な規定が多く、方式主義(著作権表示の義務など)を認めています。 ② 主要な原則: * 内国民待遇の原則: ベルヌ条約と同様の原則を定めています。 * 方式主義: 一定の著作権表示(©マーク、著作者名、最初の発行年)を行うことで、著作権の存在を主張できます。 * 保護期間の最低基準: ベルヌ条約と同様の最低基準を定めています。
(3)TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)
 ① 概要:世界貿易機関(WTO)の協定の一つであり、著作権を含む知的財産権の保護に関する国際的な最低基準を定めています。WTO加盟国は、TRIPS協定の規定を国内法に反映させる義務があります。 ② 主要な特徴:ベルヌ条約の主要な原則を包含しつつ、デジタル時代の著作権保護や権利行使に関する規定を強化しています。
(4)WIPO著作権条約(WCT)およびWIPO実演・レコード条約(WPPT)
 ① 概要:世界知的所有権機関(WIPO)が管理する条約で、デジタル環境における著作権および著作隣接権の保護を強化することを目的としています。 ② 主要な特徴:コンピュータプログラムの著作物としての保護、データベースの保護、技術的保護手段の回避に対する規制、権利管理情報に関する義務などを定めています。


2. 各国における著作権法の主な違い
 上記のような国際条約によって、著作権保護の基本的な原則は多くの国で共通化されていますが、細部においては各国で異なる規定が存在します。
(1)保護期間
 ベルヌ条約は保護期間の最低基準を定めていますが、多くの国ではそれを上回る保護期間を採用しています。例えば、日本やEU加盟国の多くは、個人の著作者の著作物の保護期間を死後70年としています。一方、国によっては死後50年を採用している場合もあります。
(2)権利の種類と範囲
 著作権が保護する権利の種類やその範囲も、国によって若干異なることがあります。例えば、翻案権の範囲、私的使用の例外規定、フェアユース(またはそれに相当する規定)の具体的な内容などが異なる場合があります。アメリカのフェアユース原則は、日本の権利制限規定よりも広範な利用を認める可能性があります。
(3)著作人格権の有無と内容
 著作人格権は、著作者の人格的な利益を保護する権利ですが、その有無や内容は国によって大きく異なります。例えば、アメリカの著作権法には包括的な著作人格権の規定はありませんが、「Visual Artists Rights Act of 1990(VARA)」によって美術および写真の著作物について限定的な著作人格権が認められています。一方、ヨーロッパ諸国では、著作人格権が強く保護される傾向があります。
(4)著作権登録制度
 ベルヌ条約は無方式主義を採用していますが、国によっては著作権登録制度を設けている場合があります。登録は権利発生の要件ではありませんが、紛争が生じた際の証拠として役立つことがあります。アメリカでは、著作権侵害訴訟を提起する前に原則として著作権登録が必要です。
(5)強制許諾制度
 特定の種類の著作物について、著作権者の許諾なしに利用できる代わりに、相当な対価を支払うことを義務付ける強制許諾制度を採用している国もあります。例えば、放送局による音楽著作物の利用などが対象となる場合があります。


3. 海外で著作権を保護するための対策
 海外で自身の著作権を保護するためには、以下の対策を検討する必要があります。
(1)国際条約の理解
 自身の著作物が、ベルヌ条約や万国著作権条約などの国際条約によって、どの国でどのように保護されるのかを理解しておくことが基本です。
(2)主要な国における著作権法の調査
 進出を検討している国や、自身の著作物が利用される可能性のある国における著作権法の保護期間、権利の種類、権利制限規定などを事前に調査しておくことが重要です。
(3)著作権表示の適切な実施
 著作物には、©マーク、著作者名、最初の発行年などを適切に表示することで、著作権の存在を周知し、注意喚起を促します。
(4)海外での著作権登録の検討
 特に重要な著作物については、進出先の国で著作権登録を行うことを検討します。登録は必須ではありませんが、権利侵害が発生した場合の証拠として有効となることがあります。
(5)契約による権利保護
 海外の事業者と著作物の利用に関する契約を結ぶ際には、利用範囲、期間、対価などを明確に定め、不利な条件がないか専門家のチェックを受けることが重要です。
(6)海外での権利行使の検討
 海外で著作権侵害が発生した場合は、現地の弁護士などの専門家に相談し、差止請求や損害賠償請求などの法的措置を検討します。海外での権利行使は、言語や法制度の違いなど、国内とは異なる課題があるため、専門家のサポートが不可欠です。
(7)国際的な権利管理団体の利用
 音楽や映像などの著作物については、国際的なネットワークを持つ著作権管理団体を通じて、海外での利用料徴収や権利行使を委託することを検討できます。


むすび
 今回は、国際的な著作権の違いと保護について解説しました。著作権の保護は、国際条約によって基本的な原則は共有されているものの、各国で異なる規定が存在するため、海外で自身の著作物を保護するためには、各国の法律や制度を理解し、適切な対策を講じることが重要です。
グローバルな視点を持ち、自身の著作物を適切に保護することで、海外でのビジネス展開や創作活動を安心して行うことができるでしょう。
 次回のテーマは「AIと著作権:自動生成コンテンツの権利問題」です。近年注目を集めるAIによるコンテンツ生成と著作権の関係について、誰が権利を持つのか、既存の著作物との関係など、複雑な問題について解説します。

2025年07月18日

著作権(第11回)著作権侵害とその対処法:どう対応すべきか?

第11回 著作権侵害とその対処法:どう対応すべきか?

はじめに
 前回は、キャラクターと著作権をはじめとする知的財産権との関係について解説しました。今回は、自身の著作権が侵害された場合に、権利者がどのように対応すべきか、具体的な対処法と注意点について解説していきます。
著作権侵害は、クリエイターの創作意欲を削ぎ、経済的な損失をもたらす深刻な問題です。侵害を発見した場合、適切な対応を取ることで、被害の拡大を防ぎ、損害の回復を図ることが重要です。本稿では、著作権侵害の種類、発見から解決までの具体的なステップ、そして法的措置を検討する際の注意点について解説します。


1. 著作権侵害の種類と発見
(1)主な著作権侵害の態様
 著作権侵害は、様々な形で行われます。主な例としては、以下のようなものが挙げられます。
 ① 無断複製:著作物を許可なくコピーする行為(例:書籍の無断コピー、音楽ファイルの違法ダウンロード)。 ② 無断アップロード:著作物をインターネット上に無断で公開する行為(例:動画共有サイトへの違法アップロード、SNSへの無断転載)。 ③ 無断利用:著作物を許可なく上演、演奏、上映、口述、展示する行為。 ④ 無断改変:著作物の内容を著作者の意に反して改変する行為。 ⑤ 海賊版の作成・頒布:著作物を不正に複製し、販売・配布する行為。
(2)著作権侵害の発見方法
 自身の著作権が侵害されているかどうかを把握するためには、定期的な監視が重要です。
 ① インターネット検索:自身の著作物のタイトルやキーワードで検索し、無断で公開されているサイトやコンテンツがないかを確認します。 ② 画像検索・動画検索:自身の作成した画像や動画が無断で使用されていないかを確認します。 ③ SNSのチェック:SNS上で自身の著作物が無断で共有されていないかを確認します。 ④ 知人・関係者からの情報提供:ファンや関係者からの情報提供も、侵害発見のきっかけとなることがあります。 ⑤ 専門業者への依頼:大規模な侵害が疑われる場合は、著作権侵害の監視や摘発を専門とする業者に依頼することも検討できます。


2. 著作権侵害への対処ステップ
 著作権侵害を発見した場合、以下のステップで対処を進めることが一般的です。
(1)証拠の保全
 侵害の事実を示す証拠を確保することが最も重要です。侵害が行われているウェブサイトのURL、スクリーンショット、ダウンロードしたファイル、日時などを記録しておきましょう。場合によっては、動画や音声などを保存しておくことも有効です。
(2)警告と削除要請まずは、侵害を行っている者に対して、著作権侵害である旨を警告し、速やかに侵害行為を停止し、無断利用されている著作物を削除するよう要請します。連絡先が明らかな場合は、内容証明郵便などで通知を送ることも有効です。ウェブサイトの管理者やSNSの運営者に対して、削除要請フォームやメールで連絡することも一般的な手段です。
(3)プロバイダへの削除要請(プロバイダ責任制限法に基づく請求)
 侵害者が不明な場合や、ウェブサイトの管理者などが対応してくれない場合は、プロバイダ責任制限法に基づき、インターネットサービスプロバイダ(ISP)に対して、侵害情報の削除を要請することができます。この請求には、一定の書式や証拠が必要となります。
(4)法的措置の検討(弁護士への相談)
 警告や削除要請に応じてもらえない場合や、損害賠償を請求したい場合は、弁護士に相談し、法的措置を検討します。法的措置には、以下のようなものがあります。
 ① 差止請求:裁判所を通じて、侵害行為の停止を求める手続きです。 ② 損害賠償請求:著作権侵害によって被った損害の賠償を求める訴訟です。 ③ 刑事告訴:悪質な著作権侵害に対して、警察や検察に捜査を求める手続きです(著作権法第119条など)。
(5)示談交渉
 法的措置に進む前に、侵害行為者との間で示談交渉を行うことも有効な手段です。示談によって、早期に問題解決を図り、裁判にかかる時間や費用を節約できる可能性があります。


3. 法的措置を検討する際の注意点
 法的措置は、権利者にとって最終的な手段となりますが、検討する際にはいくつかの注意点があります。
(1)費用と時間
 訴訟などの法的措置には、弁護士費用や裁判費用など、 多大な費用と時間がかかる場合があります。費用対効果を慎重に検討する必要があります。
(2)証拠の重要性
 訴訟で勝訴するためには、著作権侵害の事実を明確に示す証拠が不可欠です。証拠が不十分な場合は、請求が認められない可能性もあります。
(3)相手方の特定
 損害賠償請求を行うためには、侵害行為者を特定する必要があります。特定が困難な場合、プロバイダへの発信者情報開示請求などの手続きが必要となることがあります。
(4)権利の有効性
 自身の著作権が有効に存在しているか(保護期間内であるか、創作性を有するかなど)を確認する必要があります。
(5)専門家との連携
 法的措置を検討する際には、著作権に詳しい弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることが不可欠です。弁護士は、法的な手続きだけでなく、証拠収集や示談交渉などもサポートしてくれます。


4. 著作権侵害を受けないための予防策(再掲
 自身の著作権が侵害されることを未然に防ぐための対策も重要です(第9回参照)。
(1)著作権表示を適切に行う (2)利用規約やライセンス条件を明確にする (3)著作物の記録と保管を徹底する (4)インターネット上の監視を定期的に行う (5)著作権登録制度の利用を検討する


5. 著作権侵害に関する相談窓口(再掲)
著作権侵害に関する相談は、以下の窓口で行うことができます(第9回参照)。
• 日本弁護士連合会、各地の弁護士会
• 日本著作権情報センター(CRIC)
• コンテンツ海外流通促進機構(CODA)


むすび
 今回は、著作権侵害が発生した場合の対処法について、発見から法的措置まで具体的なステップと注意点を解説しました。著作権侵害は、クリエイターにとって大きな脅威ですが、適切な知識と対応によって、被害を最小限に抑えることができます。
 侵害を発見した際には、冷静に証拠を保全し、必要に応じて専門家の助けを借りながら、適切な対応を検討しましょう。そして、何よりも侵害を受けないための予防策を講じることが重要です。
 次回のテーマは「国際的な著作権の違いと保護:海外ではどう守られるのか?」です。著作権の保護は、国によって制度が異なる場合があります。海外で自身の著作物を保護するためには、どのような点に注意すべきかについて解説していきます。

2025年07月11日

著作権(第10回)キャラクターと著作権などとの関係

第10回 キャラクターと著作権などとの関係

はじめに
前回は、クリエイターが自身の著作権を守るために必要な知識と対策について解説しました。今回は、クリエイターが生み出す魅力的な「キャラクター」に焦点を当て、キャラクターが著作権によってどのように保護されるのか、そして商標権や意匠権といった他の知的財産権との関係についても詳しく解説していきます。
キャラクターは、漫画、アニメ、ゲーム、商品など、様々な分野で活用され、大きな経済的価値を生み出すことがあります。そのため、キャラクターの権利を適切に保護することは、クリエイターや事業者の重要な課題となります。本稿では、キャラクターの著作権による保護の範囲、他の知的財産権との連携、そしてキャラクター利用における注意点について解説します。


1. キャラクターの著作権による保護
(1)著作物としてのキャラクター
 キャラクターは、一般的に美術の著作物として著作権法によって保護されます。キャラクターの具体的な絵柄、デザイン、表情、ポーズなどは、著作者の思想や感情が創作的に表現されたものと認められるためです。
 ① 保護の対象:キャラクターのイラスト、漫画の登場人物の絵柄、アニメーションのキャラクターデザインなどが保護の対象となります。 ② 保護の範囲:著作権による保護は、具体的な絵柄やデザインといった表現に及びます。キャラクターのアイデアやコンセプト、単なる名前などは、原則として著作権の保護対象とはなりません。
(2)ストーリーや設定との関係
 キャラクターは、単独で存在するだけでなく、物語や世界観、性格設定などと結びついていることが多くあります。これらの要素も、著作権によって保護される可能性があります。
 ① ストーリー:キャラクターが登場する物語の筋書きや展開は、文芸の著作物として保護されます。 ② 設定:キャラクターの性格、能力、背景設定などは、アイデアの範疇にとどまる場合は保護されませんが、具体的な記述や表現として創作的に表現されている場合は、文芸の著作物の一部として保護されることがあります。
(3)保護期間
 キャラクターの著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年間です。もしキャラクターが法人によって創作された場合は、公表後70年間となります。


2. キャラクターと他の知的財産権
 キャラクターの保護は、著作権だけでなく、他の知的財産権とも深く関わっています。
(1)商標権
キャラクターは、商品やサービスの識別標識として利用されることが多く、その場合、商標権による保護が重要となります。
① 商標登録の対象:キャラクターの名称、絵柄、ロゴなどが商標登録の対象となります。 ② 保護の範囲:商標権は、商品やサービスを指定して登録されるため、登録された商品・サービスの範囲内で、キャラクターの使用を独占できます。 ③ 著作権との違い:著作権は表現そのものを保護するのに対し、商標権は商品やサービスの出所を示す標識としての機能を保護します。同じキャラクターであっても、著作権と商標権の両方による保護を受けることが可能です。
(2)意匠権
キャラクターのデザインが、商品の外観として独創性を有する場合、意匠権による保護を受けることができます。
① 意匠登録の対象:物品の形状、模様、色彩またはこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものが意匠登録の対象となります。キャラクターの立体的なフィギュアや、キャラクターがデザインされた商品などが該当します。 ② 保護の範囲:意匠権は、登録された物品のデザインそのものを保護します。 ③ 著作権との違い:著作権は創作的な表現を広く保護するのに対し、意匠権は物品の具体的な外観デザインを保護します。
(3)不正競争防止法
著作権、商標権、意匠権による保護を受けられない場合でも、著名なキャラクターについては、不正競争防止法によって保護されることがあります。他者の著名な商品等表示(キャラクターを含む)と類似する表示を使用し、需要者の混同を生じさせる行為などは、不正競争防止法によって禁止されます。


3. キャラクター利用における注意点
(1)二次利用の許諾
自身の創作したキャラクターを他者に利用させる場合(商品化、ゲームへの登場など)、**著作権利用許諾契約(ライセンス契約)**を締結する必要があります。契約においては、利用範囲、期間、対価などを明確に定めることが重要です。
(2)商標登録の検討
キャラクターを商品やサービスの展開に利用する場合は、商標登録を検討することで、他者による無断利用を防ぎ、ブランド価値を保護することができます。
(3)権利侵害への対応
自身のキャラクターが第三者によって無断利用されている場合、差止請求や損害賠償請求などの法的措置を検討する必要があります。証拠を収集し、弁護士などの専門家に相談することが重要です。
(4)海外での権利保護
海外でキャラクターを利用する場合は、その国の著作権法や商標法などの知的財産法に基づいて権利保護を行う必要があります。国際的な権利保護の仕組み(例:マドリッド協定議定書による商標の国際登録)も検討しましょう。


4. キャラクターの創作と著作権侵害
 他者の著作物であるキャラクターに類似したキャラクターを創作した場合、著作権侵害となる可能性があります。
(1)類似性の判断
 著作権侵害の判断においては、類似するキャラクターの表現が実質的に同一であるかどうかが重要なポイントとなります。アイデアやコンセプトが類似しているだけでは、著作権侵害とは認められにくいです。
(2)意図的な模倣の有無
 意図的に他者のキャラクターを模倣した場合、著作権侵害と判断される可能性が高まります。
(3)オリジナル性の確保
 キャラクターを創作する際には、既存のキャラクターに類似しないよう、独自のアイデアや表現を取り入れることが重要です。創作の過程を記録に残しておくことも、将来的な紛争予防に繋がります。


むすび
 今回は、キャラクターと著作権、そしてその他の知的財産権との関係について解説しました。キャラクターは、著作権によってその具体的な表現が保護され、さらに商標権や意匠権によって商品やサービスとの結びつきやデザインが保護されることがあります。
 自身の創作したキャラクターの権利を適切に保護し、活用するためには、これらの知的財産権の特性を理解し、適切な対策を講じることが重要です。また、他者のキャラクターを利用する際には、著作権をはじめとする関連する権利を尊重する姿勢が求められます。
 次回のテーマは「著作権侵害とその対処法:どう対応すべきか?」です。実際に著作権侵害が発生した場合に、権利者がどのように対応すべきか、具体的な手続きや注意点について解説していきます。

2025年07月04日
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