不正競争防止法(第5回)技術的制限手段に関する侵害と対応策
第5回 技術的制限手段に関する侵害と対応策
第5回目のブログでは、「技術的制限手段」に関する侵害行為とその対応策について詳しく解説します。特に、不正競争防止法と著作権法の観点から、技術的制限手段がどのように定義されているか、どのような行為が違法とされ、これに対する対応策はどのようなものがあるかを検討します。
技術的制限手段の定義
技術的制限手段(TRM: Technological Restriction Measures)は、デジタルコンテンツやソフトウェアの利用や複製、アクセスを制限するために設けられた技術的な方法を指します。これには、DRM(デジタル著作権管理:Digital
Rights Management)やアクセス制御技術が含まれ、著作権者が自己の権利を保護するために利用する技術的措置です。
日本における技術的制限手段の法的保護は、不正競争防止法と著作権法の双方に規定されています。具体的には、不正競争防止法第2条1項11号において、技術的制限手段を回避・解除する行為や、そうした行為を助長する機器やプログラムの提供が禁止されています。また、著作権法第120条の2でも、著作権の行使を守るための技術的手段を無効化する行為は罰則の対象となっています。
著作権保護との関係
技術的制限手段は、著作権保護の一環として導入されています。例えば、DVDやブルーレイに採用されているコピーガード技術や、オンラインコンテンツのストリーミング配信におけるアクセス制限は、コンテンツの無断コピーや不正利用を防止するための技術的手段です。
著作権法において、著作物を無断でコピーしたり、改変したりする行為は原則として著作権侵害とされます。技術的制限手段は、こうした侵害行為を技術的に防ぐ役割を果たしますが、単に著作権法違反を阻止するためだけでなく、コンテンツの提供者が、利用者に対して特定の条件下でのみコンテンツを使用するができるようにする役割も持っています。
たとえば、あるゲームソフトが特定の国以外では動作しないように制限をかけたり、音楽ファイルが1台のデバイスでのみ再生可能とする制限がかかっている場合などが挙げられます。このような技術的制限手段を違法に解除する行為は、著作権法違反に加え、不正競争防止法においても問題となります。
不正競争防止法における技術的制限手段の保護
不正競争防止法は、経済活動における不正行為から企業の利益を守るための法律で、技術的制限手段に対する保護も規定しています。同法第2条1項11号では、「技術的制限手段を回避、無効化する行為」が「不正競争」として定義されています。具体的には、次の行為が該当します。
1. 技術的制限手段の回避や無効化
技術的制限手段を故意に解除する行為。たとえば、DVDやブルーレイのコピーガードを解除して違法に複製する行為がこれにあたります。
2. 技術的制限手段を解除するための装置やプログラムの提供
技術的制限手段を解除するための装置やソフトウェアを販売、配布、または提供する行為も違法とされます。具体例としては、コピーガードを解除するためのハードウェアデバイスや、インターネット上で配布される違法なソフトウェアがこれに該当します。
3. 技術的制限手段を無効化するための情報の提供
技術的制限手段を解除する方法や手順を、インターネットや他の手段を通じて公開する行為も法律で禁止されています。たとえば、違法な「ハッキング」の手法を説明するウェブサイトの運営などが考えられます。
不正競争防止法は、このような行為に対して損害賠償請求や差止請求を認めており、違反者には民事上の責任が課せられます。また、著作権法における技術的制限手段の保護と重複する場合には、両法の適用がなされることになります。
技術的制限手段を違法に解除する行為の例
具体的な技術的制限手段を違法に解除する行為として、以下のような例が挙げられます。
1. DVDやブルーレイのコピーガードを解除する行為
映画や映像コンテンツの著作権保護を目的として、多くのDVDやブルーレイにはコピーガードが施されています。このコピーガードを解除して、映像を不正にコピーしたり、インターネット上にアップロードしたりする行為は、技術的制限手段の違反にあたります。
2. ゲーム機のリージョンロックを解除する行為
ゲーム機やソフトウェアには、特定の地域でのみ動作する「リージョンロック」がかけられていることがあります。これを無効化し、異なる地域で販売されているゲームソフトを動作させるための改造行為は、技術的制限手段の回避に該当します。
3. ストリーミングサービスのアクセス制限を解除する行為
音楽や動画のストリーミングサービスには、利用者が契約した範囲内でのみアクセスが許可されるように制限がかかっています。この制限を回避し、無断でコンテンツを利用する行為も技術的制限手段の侵害にあたります。
違法な手段を防ぐ方法
技術的制限手段に対する侵害行為を防止するためには、複数のアプローチが必要です。まず第一に、企業やコンテンツ提供者は、自社の技術的制限手段が不正に解除されないよう、強固な技術的保護を導入する必要があります。具体的には、以下の方法が考えられます。
1. 強化された技術的保護
技術的制限手段をより強固にすることで、不正な解除行為を物理的に困難にすることが可能です。例えば、暗号化技術の強化や、複数の認証手段を組み合わせることにより、技術的制限手段をより安全に保つことができます。
2. 法律の周知と啓発活動
技術的制限手段の重要性や、不正競争防止法および著作権法に基づく罰則を広く周知することも効果的です。違法行為に対しては、罰則や法的手段があることを消費者や業界全体に認識させることで、抑止効果が期待されます。
3. 侵害行為の早期発見と対応
インターネット上の不正行為を監視し、技術的制限手段の解除方法が公開された場合には速やかに削除を求めるとともに、法的措置をとることが重要です。また、技術的制限手段を解除するための装置やプログラムが市場に出回った場合には、迅速に差止請求や損害賠償を請求することが求められます。
4. ユーザーエデュケーション
一部のユーザーは、技術的制限手段の解除が違法であることを認識していない場合があります。そのため、コンテンツ利用者に対しても、法的リスクや技術的制限手段の意義について教育することが大切です。
結論
技術的制限手段は、著作権者やコンテンツ提供者がその権利を保護するための重要なツールであり、不正競争防止法や著作権法によって法的に保護されています。違法な技術的制限手段の回避や解除は、著作権侵害だけでなく、不正競争防止法上の問題ともなり、企業はこれに対する適切な対応策を講じる必要があります。
違法行為を防止するためには、技術的な対策と法的な対応の両方を駆使し、侵害行為を早期に発見し、対応することが求められます。また、消費者や業界全体に対する啓発活動も重要な役割を果たします。