不正競争防止法(第6回)ドメイン名と不正競争防止法

第6回 ドメイン名と不正競争防止法
 今回のブログでは、ドメイン名の不正使用、特にサイバースクワッティング(Cybersquatting)と呼ばれる行為について詳しく解説します。ドメイン名は企業や個人のオンラインでのアイデンティティを形成する重要な要素であり、これを悪用した不正行為は多くの問題を引き起こします。不正競争防止法に基づくドメイン名の保護やサイバースクワッティングの法的対応、その他の関連法規についても検討します。

1.ドメイン名の重要性とその不正使用
ドメイン名の役割
 インターネット上でウェブサイトを特定するために使用される「ドメイン名」は、企業や組織のブランドやビジネスのアイデンティティの一部です。消費者や取引先は、企業のドメイン名を通じてそのウェブサイトにアクセスし、情報を得たり商品を購入したりします。そのため、ドメイン名は商標と同様に、ブランド価値や信用に密接に関連しています。
 たとえば、企業名や製品名と一致するドメイン名(例: 「example.com」)を所有することは、その企業が顧客に対して明確な識別を提供し、オンライン上でのブランド価値を高めるための重要な手段です。
ドメイン名の不正使用とは?
 ドメイン名の不正使用の代表的な例が「サイバースクワッティング」です。サイバースクワッティングとは、他者の商標や著名な企業名に関連するドメイン名を、商業的利益を目的に無断で取得する行為を指します。サイバースクワッティングの典型的な手法は、企業が自社の名称や商標に一致するドメイン名を取得する前に、そのドメイン名を第三者が先に登録し、その後企業に対して高額な金額で販売するというものです。
 このような行為は、企業のブランド価値やオンラインでの活動を妨害するだけでなく、消費者の混乱を招き、悪質な詐欺行為にもつながる可能性があります。たとえば、詐欺的なウェブサイトに誘導し、消費者から個人情報や金銭を不正に取得することが考えられます。

2.サイバースクワッティングと不正競争防止法
不正競争防止法における保護
 日本の不正競争防止法では、同法第2条1項1号から13号にかけて、さまざまな不正競争行為が定義されており、それぞれの要件に該当すればドメイン名の不正使用も不正競争行為となります。特に、他人の周知・著名な商標や商号に類似するドメイン名を取得し、商業的な利益を得ようとする行為は、消費者の混乱を招く不正競争行為として扱われていました。不正競争防止法第2条1項における「周知表示混同惹起行為」や「著名表示冒用行為」は、企業の名前や商標が周知されている場合、その名称に類似するドメイン名を第三者が不正に取得し、消費者に混同を生じさせる行為を違法としています。たとえば、企業Aが「Example」という著名なブランドを持っている場合に、第三者が「example.com」や「example.jp」を取得して販売する行為が該当します。また、平成13年改正で、第2条1項19号において不正の利益を得る目的や他人に損害を与える目的(図利加害目的)でドメイン名を取得、保有、使用する行為が不正競争に該当することを明確に規定しました。
法的救済手段
 不正競争防止法に基づいてドメイン名の不正使用に対処するため、企業は次のような救済手段を講じることができます。
 1. 差止請求
 不正に取得されたドメイン名が使用されている場合、その使用を差し止めるための法的措置を講じることができます。不正競争防止法では、侵害行為が継続中である場合や、その危険が明白である場合に差止請求が認められています。
 2. 損害賠償請求
 不正競争防止法に基づき、ドメイン名の不正使用によって企業が被った損害について、損害賠償請求を行うことが可能です。たとえば、サイバースクワッティングによってブランド価値が毀損された場合や、顧客が不正なドメイン名に騙されて被害を受けた場合には、金銭的な補償を求めることができます。
 3. 不正競争行為の認定
 法的に不正競争行為と認定された場合、裁判所はドメイン名の返還や、第三者によるそのドメイン名の登録取消を命じることができます。これにより、企業は正当な方法でそのドメイン名を取得し、適切に使用できるようになります。

3.サイバースクワッティングに対する国際的な対応
 サイバースクワッティングは国際的な問題でもあり、日本国内だけでなく、国際的なルールや取り組みが行われています。特に、WIPO(世界知的所有権機関)が運営する「統一ドメイン名紛争処理方針(UDRP: Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy)」は、国際的なドメイン名紛争の解決手段として重要な役割を果たしています。
統一ドメイン名紛争処理方針(UDRP)
 UDRPは、gTLD(一般トップレベルドメイン:.comや.netなど)に関するドメイン名紛争を迅速かつ効率的に解決するための国際的な紛争解決手続です。UDRPに基づくドメイン名紛争処理は、以下のような基準で判断されます。
 1. ドメイン名が、申立人の商標またはサービスマークと同一または混同を招くほど類似していること。
 2. ドメイン名の登録者が、そのドメイン名に対する正当な権利や利益を持っていないこと。
 3. ドメイン名が悪意を持って登録され、使用されていること。
 これらの要件を満たしている場合、WIPOを通じてドメイン名の登録取消や移転を請求することができます。日本企業が海外でサイバースクワッティングに遭遇した場合でも、UDRPを利用して解決を図ることが可能です。
ICANNによる取り組み
 ドメイン名の管理を行っているICANN(インターネット名称と番号の割り当てに関するインターネット統治機関)も、サイバースクワッティングに対する取り組みを進めています。ICANNは、各国の法律や国際的な規制に基づいてドメイン名登録を監視・管理し、不正なドメイン名登録を防止するための制度を整えています。

4.その他の関連法規
商標法との関係
 ドメイン名が商標と密接に関連することが多いため、ドメイン名に関する紛争では商標法が適用される場合もあります。商標法において、他者の登録商標に類似するドメイン名を不正に登録し使用する行為は、商標権の侵害とみなされます。たとえば、企業Aが「Example」という商標を登録している場合に、第三者が「example.com」を使用して類似の商品を販売する行為は、商標権の侵害として法的措置を取ることができます。
電子商取引法(EC法)との関係
 日本の電子商取引法(EC法)は、インターネット上での取引を規制する法律であり、ドメイン名の不正使用がオンライン取引に悪影響を及ぼす場合には、この法律も関連してくる可能性があります。たとえば、詐欺的なドメイン名を使用して消費者を誤解させ、商品やサービスを販売する行為は、電子商取引法上の違反となる場合があります。
サイバースクワッティングに対する対応策
 サイバースクワッティングを未然に防ぐため、また発生した場合に迅速に対応するため、企業は次のような対策を講じるべきです。
 1. ドメイン名の早期取得
 自社の商標やブランド名に関連するドメイン名を早期に取得し、第三者による不正な取得を防ぐことが重要です。また、国際的な市場を意識して、主要なgTLD(.com、.netなど)だけでなく、ccTLD(国別トップレベルドメイン)も取得することが推奨されます。
 2. 商標権の取得
 ドメイン名に関連する商標を登録することで、商標法に基づく保護を受けることが可能です。商標登録は、特にサイバースクワッティングに対する法的手段を講じる際に重要な役割を果たします。
 3. 監視と早期対応
 ドメイン名の不正使用を常に監視し、問題が発生した場合には迅速に法的措置を講じることが必要です。例えば、インターネット上のドメイン名登録状況を監視するサービスを利用し、自社に関連するドメイン名が不正に登録された場合には早期に対応することが有効です。


結論
 ドメイン名の不正使用、特にサイバースクワッティングは、企業のブランド価値やオンライン活動に対する重大な脅威です。不正競争防止法や商標法、UDRPなどの法的手段を活用し、企業は自社のドメイン名を保護するための適切な対策を講じる必要があります。また、早期のドメイン名取得や監視活動によって、こうした問題を未然に防ぐことも可能です。
 企業がオンライン上での信頼性とブランド価値を維持するためには、ドメイン名に対する適切な管理と法的な知識が不可欠です。

2024年10月17日