意匠第6回:意匠登録図面の作成ポイント

意匠第6回:意匠登録図面の作成ポイント


 意匠登録の際に提出する「図面」は、単なるデザインの描写にとどまらず、意匠権を取得し維持するための極めて重要な書類です。不適切な図面は審査の遅延や拒絶理由の発生につながる可能性があるため、正確かつ明確に作成する必要があります。
 この本稿記事では、図面の役割や重要性、具体的な記載例、そして中小企業が陥りやすい失敗例について解説します。
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1. 図面の役割と重要性
 意匠登録における図面は、登録しようとするデザインの詳細を特許庁に正確に伝えるためのものです。意匠権は、提出された図面を基に審査されるため、図面の内容が権利範囲を決定します。
 • 図面が果たす役割
 1. 意匠の特定
  提出された図面が、そのまま保護対象となる意匠を示します。
 2. 第三者への通知
  登録された意匠は公開されるため、他社が侵害を避けるための指針にもなります。
 3. 権利範囲の確定
  曖昧な図面は、権利範囲の不明確さにつながり、後々のトラブルの原因となります。
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2. 図面作成のポイント
 意匠登録図面を作成する際に押さえておくべき重要なポイントを以下にまとめました。
 1. 6面図(基本構成)を揃える
 o 意匠登録では、通常以下の6面図が必要です。
  正面図、背面図、左右側面図、平面図、底面図
 o これらを揃えることで、立体的なデザインを完全に表現します。
 o 必要に応じて、斜視図(アイソメ図)や部分拡大図も追加します。
 2. 線の種類と明確さ
 o 実線:意匠の形状や模様など、権利を取得したい部分を示す。
 o 点線:参考情報としての構造や、権利範囲外の部分を示す。
 o 線の太さや途切れ方は、審査で重要な判断基準となるため、一貫性を保つことが大切です。
 3. 寸法やスケールの省略
 o 図面には寸法やスケールを記載しません。形状や意匠のデザインのみを明確に表現します。
 4. 余計な情報を削除
 o 商標や商品名、装飾的な要素を含めないようにします。審査の混乱を避けるためです。
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3. 図面記載例
 以下は、意匠登録図面の典型例です。
 • 正面図
 正面から見た形状を正確に描写します。
 • 背面図
 正面図の対となる側を描写します。正面と同一である場合は「正面図と同一」と記載可能です。
 • 側面図(左右)
 左右で異なる形状の場合、それぞれ独立して描写します。
 • 平面図・底面図
 上から見た視点と下から見た視点を描写します。
 例:湯のみ
 • 正面図:模様や形状を詳細に描く。
 • 側面図:丸みや高さを示す。
 • 平面図:縁部分の形状を明確化。
 • 底面図:底のデザインを詳細に記載。
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4. 失敗しやすいポイント
 中小企業が特に注意すべき失敗例を以下にまとめました。
 1. 図面の不整合
 o 正面図と背面図が矛盾している、線の種類が統一されていない場合は、特許庁から補正を求められる可能性があります。
 2. 詳細の記載不足
 o デザインの特徴を省略しすぎると、権利範囲が狭くなる可能性があります。
 3. 不要な装飾の記載
 o 製品のロゴや文字が含まれると、審査で問題視される場合があります。
 4. 線の曖昧さ
 o 実線と点線の区別が不明確な場合、保護範囲が不確定になり、第三者とのトラブルにつながることも。
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5. まとめと次回予告
 意匠登録図面は、単なる図形描写ではなく、企業のデザイン資産を守るための重要な要素です。6面図を基本に、線の使い分けや余計な情報の排除を徹底することで、スムーズな審査を実現できます。
 次回は「部分意匠制度とその活用」をテーマに解説します。お楽しみに!

2024年12月11日