実用新案第5回: 実用新案の請求項作成時のポイント
第5回: 実用新案の請求項作成時のポイント
本シリーズでは、中小企業の経営者の皆さまに向けて、実用新案登録制度を基礎から応用まで学べる情報をお届けしています。今回は、第5回として「実用新案の請求項作成時のポイント」について解説します。
請求項は、権利範囲を規定する極めて重要な部分であり、その作成次第で権利の有効性や活用の幅が大きく変わります。特許と比べて簡易な制度である実用新案でも、請求項作成の基本を押さえることは重要です。本稿では、中小企業が実用新案の請求項を作成する際に知っておくべきポイントや留意事項を詳しく説明します。
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1. 実用新案における請求項とは?
請求項とは、発明や考案の内容を法律的に簡潔に定義した文章であり、権利範囲を決定する基準となる部分です。簡単に言えば、「どこまでが自社の技術として保護されるのか」を明確にする部分です。
実用新案の請求項も特許と同じように、「考案の本質的特徴」を具体的かつ簡潔に表現する必要があります。ただし、実用新案の対象となるのは「物品の形状、構造、またはその組み合わせに関する技術」に限定されているため、請求項の記載内容にも特有のルールがあります。
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2. 実用新案の請求項作成時に重要なポイント
実用新案の請求項を作成する際には、以下の点を特に意識する必要があります。
2.1 考案の特徴を明確に記載する
請求項では、考案の技術的な特徴を正確に表現することが求められます。具体的には、以下を考慮します:
• 新規性:既存技術とは異なる新しい特徴が含まれていること。
• 進歩性:その特徴が、従来の技術に比べて明確な技術的効果をもたらすこと。
例えば、単なる「椅子」ではなく、「人間工学的に設計された座面と背もたれを有し、折りたたみ可能な椅子」のように、特徴が具体的にわかる記載を行います。
2.2 広すぎず、狭すぎない表現
請求項の内容が広すぎると、登録後に他社から無効審判を請求されるリスクが高まります。一方で、内容が狭すぎると、競合他社が同様の技術を少し改良するだけで権利範囲外になってしまいます。
適切なバランスを取るためには:
• 核心部分を保護するための記載に集中する。
• 「例示的要素(例えば材質や具体的な寸法)」を必要以上に限定しない。
例:
• 「金属製のばねを有する引き出し」ではなく、「弾性を有する部材を用いた引き出し」のように、より広い概念で記載する。
2.3 技術の構造・形状を具体的に記載
実用新案は「物品の形状、構造、またはその組み合わせ」に限られるため、請求項には具体的な形状や構造に基づく記載が求められます。
例えば:
• 「四辺が湾曲した枠部を備えた窓」というように、形状や構造を明確に記述します。
• 「効果を持つ機能的記載」のみに頼らず、その機能を実現する具体的な形状や構造を明示します。
2.4 一つの請求項に一つの考案
実用新案では、1つの請求項に複数の考案を記載することはできません。したがって、1つの請求項では1つの特徴的な考案に集中する必要があります。
NG例:
• 「Aという特徴を有する椅子、およびBという特徴を有するテーブル」
OK例:
• 「Aという特徴を有する椅子」と記載し、別の請求項で「Bという特徴を有するテーブル」を記述する。
2.5 技術評価書を意識した記載
実用新案では、審査が行われないため、登録時点では権利範囲の有効性が明確ではありません。しかし、実際に権利行使をする際には「技術評価書」の取得が求められます。
そのため、技術評価書で高評価を得られるよう、以下の点を意識した記載が重要です:
• 従来技術との差異を具体的に明確化する。
• 技術効果が客観的に評価できるよう、効果と特徴の対応を記述する。
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3. 請求項作成時の具体的な留意事項
中小企業が実用新案の請求項を作成する際、特に注意すべき実務的ポイントを以下にまとめます。
3.1 出願前の技術調査
請求項を作成する前に、自社技術が本当に新しいかどうかを確認するために、先行技術調査を行うことが不可欠です。これにより、無効リスクを減らし、競合他社との重複を避けることができます。
3.2 明細書との整合性
請求項は明細書の内容に基づいて作成されます。明細書と請求項の内容が矛盾している場合、登録後の権利行使が難しくなる可能性があります。
3.3 弁理士への相談
請求項作成には高度な専門知識が必要な場合があります。特に、自社のリソースに余裕がない場合や、他社との競争が激しい場合には、弁理士のサポートを受けることを検討してください。
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4. 実務での具体例
以下は、請求項作成時の良い例と悪い例を比較したものです。
悪い例:
「椅子」
• 簡潔ですが、特徴がまったく記載されていないため、他社製品と差別化できません。
良い例:
「折りたたみ可能な枠部を備え、軽量なアルミ材を使用した椅子」
• 折りたたみ可能という特徴と軽量性という技術的な要素が明確に記載されています。
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5. 実用新案の請求項を最大限活用するために
中小企業にとって、実用新案の請求項は自社の技術を保護し、ビジネス競争力を高めるための強力な武器です。適切に作成された請求項は、競合他社からの模倣を防ぎ、権利行使の有効性を高めるだけでなく、ライセンス収益の基盤ともなります。
• 自社の考案を具体的かつ簡潔に記載する。
• 他社製品との違いを強調する。
• 必要に応じて専門家のアドバイスを受ける。
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まとめ
今回は、実用新案の請求項作成時の重要なポイントと留意すべき事項について解説しました。請求項の記載は、実用新案の権利化プロセスにおける最重要ステップの一つです。適切な請求項を作成することで、自社の技術をより効果的に保護し、競争優位性を確立することができます。