実用新案第10回:実用新案の権利期間と維持管理の方法
第10回:実用新案の権利期間と維持管理の方法
本シリーズでは、中小企業の経営者の皆さまに向けて、実用新案登録制度について基礎から応用まで学べる情報をお届けしています。今回は第10回として、実用新案権の権利期間とその維持管理方法について解説します。
実用新案権を適切に維持することは、事業の競争力を保ち、技術を最大限活用するために欠かせません。本稿では、権利期間の概要や維持費、さらに維持管理の実務的なポイントについて詳しくお伝えします。
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1. 実用新案権の権利期間
実用新案権は、特許と同じく一定の期間、技術を独占的に保護するための権利です。ただし、権利期間は特許とは異なる特徴を持っています。
1.1 権利期間の概要
• 存続期間: 出願日から10年間
特許の権利期間(20年)と比較して短く設定されています。
• 開始時点: 出願日が基準となります。出願日から10年後に権利が消滅します。
• 延長は不可: 特許制度では医薬品など一部で延長可能な場合がありますが、実用新案権には延長制度がありません。
1.2 権利期間の活用ポイント
実用新案は、短期間で権利化が可能であり、短命な製品や技術に適しています。たとえば、トレンド商品や改良型技術では、10年という期間が十分である場合が多いです。
活用例:
• トレンドに敏感な市場: ファッションアイテム、消費財、電子ガジェットなど。
• 製品改良: 短いライフサイクルで進化する製品の小改良技術。
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2. 実用新案権の維持費
権利を維持するためには、毎年特許庁に登録料を支払う必要があります。これを怠ると権利が消滅するため、継続的な管理が必要です。
2.1 登録料の支払いスケジュール
実用新案の登録料は、3年ごとの区切りでまとめて支払うことができます。具体的には以下のようになります:
• 第1期: 登録日から3年分の登録料
• 第2期: 4~6年目の分をまとめて支払う
• 第3期: 7~10年目の分をまとめて支払う
各期間ごとに登録料を支払うことで権利を維持できます。
2.2 登録料の金額(2024年現在)
登録料は特許に比べて低額に設定されています。以下は、標準的な金額の例です:
• 第1期(1~3年目): 約2,200円(1年分:要3年分一括納付)
• 第2期(4~6年目): 約6,400円(1年分)
• 第3期(7~10年目): 約19,000円(1年分)
※中小企業や個人事業主の場合、軽減措置を利用することでさらにコストを抑えることが可能です。
2.3 支払い方法
登録料の支払いは、オンライン(電子出願システム)または特許印紙を貼付した書面の郵送で行います。特許庁窓口で手続する場合には「3Dセキュア」登録済のクレジットカードも使用できます。支払期限を過ぎると、権利は失効します。ただし、納付期限を過ぎても、6カ月以内に追加料金を納付すれば、権利は維持されます。放置すると権利は納付期限に遡って消滅します。万一、権利が消滅しても納付期限から1年以内であれば回復できる場合があります。詳細は特許庁WEBサイトをご確認ください。支払期限を過ぎてしまった場合には至急、弁理士に相談することをお薦めします。
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3. 実用新案権の維持管理の実務的ポイント
実用新案権を有効に活用し、権利を無駄にしないためには、適切な維持管理が欠かせません。以下に、実務上の具体的な管理ポイントをまとめます。
3.1 継続的なスケジュール管理
登録料の支払い期限を逃さないよう、権利のスケジュールを一元管理することが重要です。
対策:
• 管理ツールの活用: 専用の知的財産管理ソフトウェアを使用する。
• リマインダー設定: カレンダーアプリやアラートを活用して期限を忘れないようにする。
• 弁理士や専門家のサポート: 専門家に維持管理を依頼することで、手間を軽減。
3.2 登録料軽減措置の活用
市町村民税非課税者向けに、登録料や技術評価書請求を軽減する制度が用意されています。要件を満たす場合は、積極的に申請することでコスト削減が可能です。なお、特許では特許料(登録料)が最大で1/2に軽減される中小企業特例(軽減措置)がありますが、実用新案への適用はありません。
• 最新の要件や申請方法を定期的に確認しましょう。
3.3 技術評価書の取得と活用
実用新案は無審査で登録されるため、権利の有効性を確認するために技術評価書の取得が必要です。この評価書は、以下のような場面で重要な役割を果たします:
• 権利行使の際の信頼性確保: 他社に対して警告や差止請求を行う際に必要。
• ライセンス供与の際の信頼性向上: 技術評価書があることで交渉を有利に進められる。
評価書の取得には手続きと費用がかかるため、予算やタイミングを計画的に設定することが重要です。
3.4 権利の定期的な見直し
取得した実用新案権の有効性やビジネス価値を定期的に見直すことで、不要な権利を早めに放棄し、コストを削減することができます。
チェックポイント:
1. 市場環境の変化: 権利を取得した製品が市場でどのように評価されているか。
2. 競争状況: 他社の技術や製品が類似していないか。
3. コストパフォーマンス: 登録料を支払い続ける価値があるか。
3.5 ライセンスや譲渡による活用
維持管理が難しい場合や、自社で活用する予定がない場合は、権利を他社にライセンス供与したり、譲渡したりする方法もあります。
活用例:
• ライセンス契約: 他社に技術を使用させ、ロイヤルティ収入を得る。
• 権利の譲渡: 必要とする企業に権利を売却し、資金を得る。
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4. 実用新案権維持管理の成功事例
4.1 小型家電メーカーの事例
ある中小企業が、キッチン家電の改良技術で実用新案権を取得。定期的に市場調査を行い、技術評価書を取得した上で、模倣品を排除するための警告を実施しました。適切な維持管理によって、競争優位性を確保し続けました。
4.2 DIY工具メーカーの事例
自社では利用予定がなくなった実用新案権を、別の企業に譲渡。これにより、維持費を削減しつつ、新たな収益源を得ることができました。
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まとめ
実用新案権の適切な維持管理は、コストを抑えながらビジネスの競争力を維持するために不可欠です。権利期間をしっかり把握し、登録料の支払いスケジュールを管理することで、権利を最大限活用できます。また、軽減措置や技術評価書の取得、ライセンスや譲渡の活用を上手に使うことで競争優位を確保しましょう。