財務諸表第4回(初級編)

初級編 第4回: キャッシュフロー計算書(C/F)を徹底解説

 企業経営において「キャッシュ(現金)」は命綱ともいえる重要な要素です。どれだけ利益を出していても、現金が不足すれば事業運営に支障をきたします。その現金の流れを可視化するのが「キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement: C/F)」です。本稿では、キャッシュフローの種類や重要性、分析の基本について解説し、資金繰りや経営判断に役立つ実用的なヒントを提供します。
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1. キャッシュフロー計算書(C/F)とは?

(1) キャッシュフロー計算書の役割
 キャッシュフロー計算書は、一定期間における現金の流れを示す財務諸表です。これを見ることで、会社の現金収支がプラスなのかマイナスなのか、またどの活動で現金が増減しているのかを把握できます。
 • 利益とキャッシュフローの違い:
 利益が出ていても現金が不足していることがあります。例えば、売掛金(未回収の売上)が多い場合、利益は計上されますが現金収入は後日となります。
 • 重要性:
 キャッシュフローを正確に把握することで、資金繰りや投資判断が適切に行えます。

(2) キャッシュフローの3つの区分
 キャッシュフロー計算書は、以下の3つの区分で構成されています。それぞれが異なる視点から現金の動きを示します。

① 営業活動によるキャッシュフロー
• 何を表すか:
 本業(商品やサービスの提供)から生じる現金の流れ。
• 具体例:
 o 現金売上の入金。
 o 仕入れ費用や人件費の支払い。
• ポイント:
 営業活動によるキャッシュフローがプラスであれば、本業で稼げていることを意味します。

② 投資活動によるキャッシュフロー
• 何を表すか:
 設備投資や資産購入、売却による現金の流れ。
• 具体例:
 o 新しい工場の建設による支出。
 o 不動産の売却による収入。
• ポイント:
 投資活動によるキャッシュフローがマイナスであることは、必ずしも悪いことではありません。将来の成長に向けた投資を表します。

③ 財務活動によるキャッシュフロー
• 何を表すか:
 資金調達や返済による現金の流れ。
• 具体例:
 o 借入金の増加による収入。
 o 配当金の支払いによる支出。
• ポイント:
 財務活動によるキャッシュフローが安定しているかどうかが、資金繰りの健全性を示します。
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2. キャッシュフロー計算書から読み解けること

 キャッシュフロー計算書は、経営状況や資金繰りを多角的に分析するためのツールです。以下は、C/Fを活用して読み解けるポイントです。

(1) 現金の動き
• 営業活動、投資活動、財務活動のどの領域で現金が増減しているかを確認します。
• 例: 営業活動でプラス、投資活動でマイナスの場合は、本業の利益を成長投資に回している健全な状態です。

(2) 企業の成長性
• 投資活動によるキャッシュフローがマイナスの場合、新しい設備や事業拡大のための投資を行っている可能性があります。

(3) 資金繰りの健全性
• 営業活動によるキャッシュフローがマイナスの場合、資金繰りが悪化している可能性があるため、原因を特定し、早急な対応が求められます。
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3. キャッシュフロー分析の基本
キャッシュフロー計算書を使って経営の状態を分析する際、以下の指標や手法を活用します。

(1) フリーキャッシュフロー(FCF)
• 計算式:
フリーキャッシュフロー = 営業活動によるキャッシュフロー - 投資活動によるキャッシュフロー
• 意味:
企業が自由に使える現金を示します。この値がプラスであれば、会社が本業で稼いだ現金で投資をまかない、さらに余剰がある状態です。
• 例:
営業活動によるキャッシュフローが +2,000万円、投資活動によるキャッシュフローが -1,200万円の場合、フリーキャッシュフローは +800万円。

(2) キャッシュフロー比率
• 計算式:
キャッシュフロー比率 = 営業活動によるキャッシュフロー ÷ 流動負債 × 100
• 意味:
流動負債(1年以内に返済する負債)をキャッシュでどの程度まかなえるかを示します。目安は20%以上です。

(3) 営業キャッシュフローマージン
• 計算式:
営業キャッシュフローマージン = 営業活動によるキャッシュフロー ÷ 売上高 × 100
• 意味:
売上に対して、どれだけの現金を生み出しているかを示します。10%以上であれば健全とされます。
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4. キャッシュフロー計算書の実践活用

(1) 資金繰り改善のヒント
 キャッシュフロー計算書を活用して、現金不足の原因を特定し、以下のような改善策を講じます。
• 改善策例:
 o 売掛金の回収期間を短縮する。
 o 在庫を削減し、過剰な資金の固定化を防ぐ。
 o 借入金の返済スケジュールを見直す。

(2) 投資判断に活用
 投資活動によるキャッシュフローを分析し、設備投資や新規事業のタイミングを判断します。
• 例:
 フリーキャッシュフローが十分にプラスであれば、積極的な設備投資を検討する。

(3) 経営戦略の立案
 キャッシュフロー分析を基に、経営戦略の優先順位を明確にします。
• 例:
 営業キャッシュフローマージンが低い場合、本業の効率化を優先。
 投資活動によるキャッシュフローがプラスの場合、不必要な資産を売却して資金を確保。
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まとめ
 キャッシュフロー計算書は、会社の現金の流れを可視化し、資金繰りや経営の健全性を判断するための重要なツールです。営業活動、投資活動、財務活動の3つの区分を理解し、フリーキャッシュフローなどの指標を活用することで、現金を適切に管理し、経営の安定と成長を目指すことができます。

2025年03月10日