財務諸表第11回(上級編)法人税計算・減価償却・税効果会計を理解する
上級編 第11回:財務諸表と税務の関係:法人税計算・減価償却・税効果会計を理解する
はじめに
財務諸表は企業の経営状況を示す重要なツールですが、税務とも密接に関係しています。特に中小企業経営者にとって、税金の計算方法や税務会計上の調整を理解することは、キャッシュフローの管理や適正な納税計画に大きく影響します。
今回は、財務諸表と税務の関係について、以下の3つの観点から解説します。
• 法人税計算の仕組みと財務諸表との関連
• 減価償却が財務・税務に与える影響
• 税効果会計の考え方と実務への応用
経営に直結する実務的な視点を交えて解説していきます。
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1. 法人税計算と財務諸表の関係
法人税は、企業の利益に対して課される税金ですが、「会計上の利益」と「税務上の所得」には違いがあります。これを理解することで、適正な納税計画や節税対策が可能になります。
1-1. 法人税の基本的な計算の流れ
法人税の計算は、以下のステップで行われます。
1. 会計上の利益(税引前当期純利益)を算出
o 損益計算書の「税引前当期純利益」が出発点となります。
2. 税務調整を行い、課税所得を算出
o 会計上の利益から、税務上認められない経費(寄付金や罰金など)を加算し、税務上の優遇措置(特別控除や繰越欠損金など)を差し引きます。
3. 法人税率を適用して税額を計算
o 中小企業には軽減税率が適用されるケースがあります。
4. 税額控除や繰越控除を適用し、最終的な法人税額を決定
1-2. 税務調整が必要な主な項目
税務調整にはさまざまな項目がありますが、代表的なものを以下に示します。
項目 具体例
加算調整(税務上の加算項目) 交際費の一部、役員賞与、法人税等
減算調整(税務上の減額項目) 受取配当金の一部、繰越欠損金の控除
税務調整を適切に理解し、必要な処理を行うことで、法人税の適正な申告とキャッシュフローの最適化が可能になります。
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2. 減価償却の財務・税務への影響
2-1. 減価償却とは?
企業が設備や機械、建物などを購入した場合、その費用を一度に経費として計上するのではなく、耐用年数にわたって分割して計上するのが「減価償却」です。
財務会計と税務会計では減価償却の方法が異なるため、注意が必要です。
2-2. 財務会計と税務会計の減価償却の違い
比較項目 財務会計 税務会計
目的 実態に即した利益計算 税負担の適正化
償却方法 企業が選択可能(定額法・定率法など) 税法で定められた方法に従う
耐用年数 企業の判断により変更可能 法定耐用年数に従う
たとえば、企業が独自の判断で財務会計上「5年」で償却するとしても、税務会計上の法定耐用年数が「10年」であれば、税務申告時には10年で計算する必要があります。
2-3. 減価償却の節税効果
減価償却費は、利益を圧縮することで法人税額を抑える効果があります。
特に中小企業向けには、即時償却や特別償却といった優遇制度があるため、これらを活用することで節税につなげることが可能です。
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3. 税効果会計とは?
3-1. 税効果会計の基本的な考え方
税効果会計とは、会計上の利益と税務上の利益のズレによる「一時差異」を調整し、適正な税負担を会計上反映するための仕組みです。
たとえば、減価償却費の計算方法が異なることで、税務上の所得が会計上の利益とずれる場合、将来的に税負担が増減することになります。
これを調整するのが税効果会計であり、「繰延税金資産」または「繰延税金負債」として貸借対照表に計上されます。
3-2. 繰延税金資産と繰延税金負債
項目 具体例
繰延税金資産(将来の税負担軽減) 繰越欠損金、過大な減価償却費
繰延税金負債(将来の税負担増加) 短期間での減価償却、特別償却
たとえば、赤字企業が税務上の欠損金を繰り越す場合、将来の利益と相殺できるため、繰延税金資産として計上します。
3-3. 中小企業における実務ポイント
• 税効果会計は一定規模以上の企業に適用されるが、税務戦略の観点から理解しておくと有利
• 繰越欠損金の活用(最大10年間繰越可能)を意識する
• 大きな設備投資をする際、税務上の減価償却とのズレを把握し、キャッシュフローを考慮する
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まとめ
財務諸表と税務の関係は、法人税計算・減価償却・税効果会計の3つの要素を理解することで、より適切な経営判断が可能になります。
• 法人税計算では、会計上の利益と税務上の所得の違いを理解し、適切な税務調整を行うことが重要
• 減価償却は利益圧縮による節税効果があるため、適切な方法を選択することが必要
• 税効果会計を理解し、繰延税金資産や繰延税金負債を把握することで、将来的な税負担のコントロールが可能