商標:不使用取消審判(第5回)

第5回:使っていないのには理由がある!「正当な理由」とは

1.不使用でも取消しを免れる例外
(1)制度の基本
 商標法第50条は、登録商標が継続して3年以上使用されていない場合には取消しの対象とする一方で、「正当な理由」により使用できなかったときは、例外的に取消しを免れる余地を認めています。
(2)実務上の位置付け
 この「正当な理由」は、
 ① 例外的な救済規定であり
 ② 限定的に解釈・適用される
 と理解する必要があります。
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2.「正当な理由」の基本的な考え方
(1)判断基準
 特許庁の審判実務においては、
 ① 商標権者の意思によらない事情であること
 ② 通常の努力では回避できない事情であること
 が重視されます。
(2)本質的な要件
 すなわち、
 「商標権者のコントロールが及ばない外部的障害」によって使用できなかった場合に限り、正当な理由が認められ得ます。
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3.認められ得る典型例
(1)不可抗力による使用不能
 ① 地震・風水害等の自然災害により事業活動が停止した場合
 ② 工場・店舗の被災により商品提供が不可能となった場合
(2)法規制・行政上の制約
 ① 輸入規制や流通規制により商品供給ができない場合
 ② 許認可の未了・遅延により役務提供ができない場合
(3)第三者による権利行使等
 ① 他者との権利紛争により使用が制限されていた場合
 ② 差止め等により事実上使用不能となっていた場合
(4)共通点
 これらはいずれも、
 ① 外部的要因による障害であり
 ② 商標権者の意思や経営判断では回避できない
 という点で共通しています。
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4.認められにくい典型例
(1)経営上の判断による不使用
 ① 景気悪化により事業を停止した
 ② 採算が合わず提供を中止した
 ③ 他事業に経営資源を集中した
(2)準備・計画段階にとどまる場合
 ① 将来使用する予定で保有していた
 ② 事業化の検討中であった
(3)内部事情による遅延
 ① 忙しくて着手できなかった
 ② 人員不足・体制未整備
(4)評価のポイント
 これらはすべて、「商標権者自身の判断・内部事情」に基づくものであり、原則として正当な理由とは認められません。
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5.厳格に運用される理由
(1)制度趣旨との関係
 不使用取消審判は、
 ① 使用されていない商標を市場から排除し
 ② 新たな利用機会を確保する
 ための制度です。
(2)例外拡大の弊害
 「使用できなかった理由」を広く認めてしまうと、制度の実効性が失われ、死蔵商標が温存される結果となります。
(3)結論
 このため、「真にやむを得ない場合」に限って例外が認められるという、厳格な運用が採られています。
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6.立証責任と証拠の重要性
(1)立証責任の所在
 正当な理由の存在についても、商標権者側が証明責任を負います。
(2)必要となる証拠の例
 ① 災害による被害状況を示す資料
 ② 行政手続の経過を示す書面
 ③ 使用不能であった期間を裏付ける記録
(3)実務上の注意点
 単なる説明や主張では足りず、客観的証拠に基づく立証が不可欠です。
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7.経営判断と法的評価の乖離
(1)合理的経営判断との関係
 ① 不採算事業からの撤退
 ② 成長分野への集中投資
 これらは経営として合理的な判断です。
(2)商標法上の評価
 しかし、その結果として商標の使用が停止すれば、不使用取消審判のリスクは回避できません。
(3)重要な認識
 「経営として正しい判断」であっても、「商標権の維持」とは別問題である点に注意が必要です。
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8.実務的な対応策
(1)使用の継続を最優先とする
 完全に使用を停止するのではなく、最小限でも継続的な使用を維持することが重要です。
(2)早期の使用再開
 使用を中断している場合には、できるだけ早期に再開し、3年の不使用期間を経過させないよう管理します。
(3)商標ポートフォリオの整理
 ① 使用予定のない商標の見直し
 ② 実際に使用する商標への集中
 により、リスクの低減を図ります。
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9.まとめ
 商標法における「正当な理由」は、
 ① 限定的にしか認められない例外であり
 ② 実務上のハードルは非常に高い
 といえます。
 したがって、
 ① 「使えなかった理由」に依拠するのではなく
 ② 「使い続ける体制」を維持すること
 が最も確実な対応です。
 例外に依存した権利管理は極めて不安定であり、商標権を維持するためには、平時からの使用管理が不可欠です。

本記事についてのご相談:
 「不使用取消審判」の請求側、請求された商標権者側、どちらのご相談もお受けいたします。
 商標法上の使用となっているか、指定商品・指定役務についての使用となっているか、取得したい商標の商標権者が使用しているかどうかを調べたいなど、お気軽にご相談ください。

     弁理士 矢口和彦事務所
         所長 弁理士  矢 口 和 彦

2026年04月17日