商標ライセンス(第7回)

第7回 グループ会社や取引先に使わせる場合の注意点
~「身内だから大丈夫」が思わぬリスクになることも~

 これまでの連載では、商標ライセンスの仕組みや契約、品質管理について解説してきました。
商標ライセンスというと、
• フランチャイズ
• ブランドビジネス
• 有名企業のライセンス事業
を思い浮かべる方も多いかもしれません。
 しかし、中小企業において実際によく見られるのは、「グループ会社や取引先に商標を使わせている」というケースです。
 そして、このような身近な関係だからこそ、思わぬ問題が発生することがあります。
 今回は、中小企業で特に多い事例を取り上げながら、商標利用の注意点について解説します。

「同じグループだから問題ない」と考えていませんか
 例えば、
• 親会社が商標権者
• 子会社が商品を販売
というケースがあります。
 経営者からすると、「実質的には同じ会社だ」という感覚かもしれません。しかし、法律上は別の法人です。
親会社と子会社は別人格であり、それぞれ独立した権利義務を持っています。そのため、商標の利用関係を明確にしておくことが望ましい場合があります。
 特に会社の規模が大きくなり、グループ企業が増えてくると、「どの会社が商標権者なのか」「どの会社が実際に使用しているのか」が分かりにくくなることがあります。

個人名義の商標が残っているケース
 中小企業では意外によく見られるケースがあります。会社設立前に、経営者個人が商標登録を行ったというケースです。
 その後、法人化して事業を行っているものの、商標権は個人名義のままになっていることがあります。
経営者としては、「自分の会社なのだから問題ない」と考えるかもしれません。
しかし、
• 事業承継
• 相続
• 株式譲渡
• M&A
などの場面では問題になることがあります。
 商標権者と実際の事業主体が異なる場合には、一度整理しておくことをお勧めします。

販売代理店に商標を使わせる場合
 販売代理店との関係もよく見られるケースです。
代理店は商品を販売するために、
• 商標
• ロゴ
• 商品写真
• カタログ
などを使用します。
 このとき、「販売しているのだから当然使える」と考えがちです。
しかし、
• どのような広告を認めるのか
• インターネット上でどこまで利用できるのか
• 契約終了後はどうするのか
などを決めておかないとトラブルになることがあります。
実際には、契約終了後もホームページやSNSにブランド名が残り続けるケースもあります。
業務委託先との関係にも注意
近年では業務委託を活用する企業が増えています。
例えば、
• ECサイト運営
• マーケティング
• 広告制作
• コールセンター
などです。
 業務委託先が商標を利用する場面も少なくありません。
 このような場合、「業務を依頼しているだけだから問題ない」と思われることがあります。
 しかし、商標の使用範囲が曖昧なままだと、想定外の広告や販促活動に利用される可能性があります。ブランドを守るためには、委託先との間でもルールを明確にしておくことが重要です。

良好な関係ほど契約を作りにくい
 実務上、最も契約が整備されていないのは、実は信頼関係の強い相手との取引です。
例えば、
• 親族の会社
• 長年の取引先
• グループ会社
• 昔からの知人
などです。
 関係が良好なため、「わざわざ契約書を作る必要はない」と考えてしまいます。
 しかし、関係が良好なうちにルールを明確にしておくことが、本当の意味で双方を守ることにつながります。
 契約書は相手を信用していないから作るのではありません。将来の誤解を防ぐために作るのです。

事業承継やM&Aで問題になることも
 商標利用関係の曖昧さは、普段は問題にならないことがあります。
しかし、
• 事業承継
• 相続
• M&A
• 会社分割
といった場面では大きな問題になることがあります。
 買収を検討する企業や金融機関は、「商標権は誰が持っているのか」「誰が使用しているのか」を確認します。もし利用関係が曖昧であれば、企業価値の評価に影響する可能性もあります。ブランドは重要な経営資産です。だからこそ、権利関係も整理されていることが望ましいのです。

商標の利用実態を一度確認してみよう
もし、この記事を読んでいる経営者の方が、
• 子会社で商標を使っている
• 関連会社で商標を使っている
• 販売代理店に使わせている
• 委託先に使わせている
という状況であれば、一度整理してみることをお勧めします。
確認していただきたいのは、
• 商標権者は誰か
• 実際の使用者は誰か
• 利用条件は決まっているか
• 契約書はあるか
という点です。
意外と整理されていないケースは少なくありません。

次回予告
 ここまで商標ライセンスの活用方法や契約、品質管理について解説してきました。
次回は、「商標ライセンスを巡るトラブル事例」をテーマに、
• 契約終了後も使われ続けたケース
• ライセンス料を巡る争い
• ブランドイメージが損なわれたケース
など、実際によくある問題を取り上げます。
 トラブル事例を知ることで、どのような点に注意すべきかを具体的に理解していただければと思います。
 そして、その次の第9回では、「不使用取消審判とライセンスの関係」という、多くの企業が見落としがちな重要テーマについて解説する予定です。


2026年07月10日