商標ライセンス(第9回)

第9回 商標ライセンスと不使用取消審判
~登録しただけでは商標権は守れない~

これまでの連載では、
• 商標ライセンスの仕組み
• ライセンス料
• 契約書
• 品質管理
• グループ会社利用
• トラブル事例
などについて解説してきました。

 ここまで読んでいただいた方の中には、「商標ライセンスは意外と奥が深い」と感じられた方もいらっしゃるでしょう。
 そして今回取り上げるテーマは、商標ライセンスと深い関係があります。
それが「不使用取消審判」です。商標登録をしたからといって、その権利が永久に維持されるわけではありません。商標は使ってこそ価値がある権利です。
 そのため、一定期間使用されていない商標は、第三者から取消しを求められる可能性があります。

商標を使っていないと取り消されることがある
 商標法には、不使用取消審判という制度があります。簡単に言えば、「長期間使われていない商標を整理する制度」です。商標登録は限られた権利です。
 誰かが登録している限り、他人は同じような商標を自由に使えません。もし全く使われていない商標が大量に残り続けると、新しく事業を始めようとする人の妨げになります。
 そこで、一定期間使用されていない商標については取消しを認める仕組みが設けられています。

「使っている」とはどういうことか
 ここで重要になるのが、「誰が使っていればよいのか」という問題です。
 多くの経営者は、「商標権者本人が使っていなければいけない」と思われています。しかし実際には、商標権者自身が使用している場合だけでなく、許諾を受けた者が使用している場合も重要になります。
例えば、
• 子会社
• 関連会社
• 販売代理店
• フランチャイズ加盟店
などが商標を使用しているケースがあります。
 こうした利用が適切に行われていれば、不使用取消審判への対応において重要な意味を持つことがあります。

「実際には使っている」の落とし穴
 実務上よく見られるのが、「商標は確かに使っている」というケースです。
ところが詳しく確認すると、
• 誰が使っているのか曖昧
• 契約書が存在しない
• 使用開始時期が不明
• 証拠が残っていない
ということがあります。
 経営者としては、「現実に使っているのだから問題ない」と考えがちです。しかし、不使用取消審判では、実際の使用を証明できるかどうかが重要になります。

第7回でお話しした問題
 第7回では、グループ会社や取引先に商標を使わせる場合の注意点について解説しました。
その際、
• 商標権者は誰か
• 実際の使用者は誰か
• 契約書はあるか
を確認することが重要だとお話ししました。
 実は、これらは不使用取消審判とも深く関係しています。
 例えば、親会社が商標権者である一方、実際の販売活動は子会社が行っているケースがあります。あるいは、ブランド商品を代理店が販売しているケースもあります。
 こうした場合、利用関係が整理されていないと、後になって説明が難しくなることがあります。

証拠は日常業務の中にある
 不使用取消審判というと、特別な準備が必要だと思われるかもしれません。
 しかし実際には、日常業務の中で作成される資料が重要な証拠になることがあります。
例えば、
• 商品カタログ
• パンフレット
• 納品書
• 請求書
• ホームページ
• 広告資料
などです。
 重要なのは、「商標が使用されていたこと」を客観的に示せることです。
 そのため、ブランドを活用している企業ほど、資料を適切に保管しておくことが重要になります。

契約書が果たすもう一つの役割
 これまで契約書については、
• トラブル予防
• 品質管理
• 利用条件の明確化
という観点から説明してきました。
 しかし契約書にはもう一つの役割があります。それは、「利用関係を説明する資料」としての役割です。
誰が。どの範囲で。どのような条件で。商標を使用しているのか。
 それを明確にしておくことは、後日の紛争予防だけでなく、権利維持の観点からも有益です。

商標登録はゴールではない
 商標出願を行い、登録証が届くと、「これで安心だ」と思われる方が多いでしょう。もちろん、商標登録は重要な第一歩です。
 しかし、本当のスタートはそこからです。ブランドを育てる。ブランドを活用する。ブランドを守る。その過程で商標ライセンスが活用されます。
 そして、適切な利用管理が行われていることが、商標権の価値を支えることになります。

ライセンス管理は権利維持にもつながる
 この連載では、商標ライセンスを「ブランド活用の手段」として解説してきました。
 しかし、ライセンス管理にはそれ以上の意味があります。
誰が使っているのか。どのような関係で使っているのか。それを説明できる状態にしておくことは、商標権の維持にも役立つのです。
 商標ライセンスは単なる契約ではありません。ブランド管理であり、権利管理でもあるのです。

次回予告
 10回シリーズの最終回となる次回は、「商標ライセンスを経営戦略に活かす」
をテーマにお話しします。
 商標ライセンスは法律の問題だけではありません。事業拡大、事業承継、フランチャイズ展開、地域ブランド活用など、経営戦略とも深く関係しています。
 最終回では、これまでの内容を振り返りながら、「守る商標から、活かす商標へ」という視点でまとめたいと思います。

2026年07月24日