第1回 商標登録しただけではもったいない
~中小企業こそ知っておきたい商標ライセンスという考え方~
「商標登録をしました」「商標権を取りました」
中小企業の経営者の方から、このようなお話を伺うことがあります。確かに、商標登録は重要です。自社の商品名やサービス名、会社名などを守るための有効な手段です。
しかし、商標登録の目的は「他人に真似されないようにすること」だけではありません。
実は、商標は会社の重要な経営資産であり、活用次第では事業拡大や収益向上にも役立てることができます。
その代表的な方法が「商標ライセンス」です。
今回から数回にわたり、中小企業経営者の皆様に向けて、商標ライセンスの基礎知識や活用方法について解説していきます。
第1回では、まず「商標ライセンスとは何か」「なぜ中小企業に関係があるのか」についてご説明します。
商標は会社の財産である
会社には様々な財産があります。現金や預金、土地や建物、機械設備などは分かりやすい財産です。
一方で、目には見えない財産もあります。技術、ノウハウ、顧客との信頼関係、そしてブランドです。
例えば、皆様の会社の商品やサービスが市場で評価されているとします。
お客様が商品を選ぶ際、「この会社の商品だから安心だ」と思って購入しているのであれば、その会社名や商品名には価値があります。
その価値を法的に保護するのが商標権です。
商標登録によって、その名称やロゴを独占的に使用できるようになります。つまり商標権は、会社が保有する知的財産の一つなのです。
商標ライセンスとは何か
商標ライセンスとは、簡単に言えば、「自分の商標を他人に使わせること」です。
もちろん無条件ではありません。使用する範囲や期間、条件などを契約で定めたうえで利用を認めます。
例えば、
• フランチャイズ加盟店に店舗名を使用させる
• 販売代理店にブランド名を使用させる
• 子会社や関連会社に同じブランドを使用させる
• 製造委託先に商標を付した商品を製造させる
といったケースがあります。
実は、多くの企業が知らないうちに商標ライセンスに近いことを行っています。しかし、契約や管理が不十分なまま運用している例も少なくありません。
中小企業には関係ないと思っていませんか
商標ライセンスという言葉を聞くと、「大企業の話だろう」「有名ブランドだけの話ではないか」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、実際には中小企業ほど関係があります。
例えば、地方で成功している飲食店があるとします。別の地域で同じ屋号を使って店舗展開したい場合、商標ライセンスが必要になることがあります。
また、家族経営から法人化し、別会社を設立した場合にも商標の利用関係を整理する必要があります。さらに、販売代理店や業務委託先に自社ブランドを使用させるケースもあります。
このような場面では、企業規模に関係なく商標ライセンスの問題が生じます。むしろ中小企業の方が、人的なつながりや信頼関係を前提として進めてしまい、「契約書を作っていなかった」「誰がどの範囲で使ってよいのか決めていなかった」という問題が発生しやすい傾向があります。
商標を貸すことで何が得られるのか
商標ライセンスのメリットは大きく分けて三つあります。
1. 事業拡大がしやすくなる
自社だけで全国展開するには限界があります。しかし、他社と協力しながらブランドを展開すれば、より広い地域や市場に進出できます。商標ライセンスは、ブランドを活用した事業拡大の手段の一つです。
2. 収益源を増やせる
ライセンス契約によって使用料(ロイヤルティ)を受け取ることがあります。商品やサービスを直接販売しなくても、ブランドそのものが収益を生み出す可能性があります。
もちろん、すべての企業がすぐにロイヤルティ収入を得られるわけではありません。しかし、自社ブランドに価値が生まれれば、新たな収益源となる可能性があります。
3. ブランド価値を高められる
適切な管理のもとでライセンス展開を行えば、ブランドの認知度向上につながります。ブランドが広く知られるようになれば、本業にも好影響を与える可能性があります。
ただし「貸せばよい」わけではない
一方で、商標ライセンスにはリスクもあります。
例えば、
• 品質の低い商品にブランド名を付けられる
• 契約終了後も使われ続ける
• 使用料の支払いを巡って争いになる
• 商標権者の管理が不十分になる
といった問題が発生することがあります。
ブランドは築くのに長い時間がかかりますが、失うのは一瞬です。そのため、商標ライセンスでは契約や管理が極めて重要になります。
まずは「守る商標」から「活かす商標」へ
商標というと、
「登録するもの」
「侵害されたときに使うもの」
というイメージを持たれがちです。
もちろん、それも重要な役割です。
しかし、商標は守るためだけの権利ではありません。事業を広げるためのツールであり、会社のブランド価値を高めるための経営資産でもあります。
今後の連載では、
• 商標ライセンスの仕組み
• ライセンス契約のポイント
• ロイヤルティの考え方
• グループ会社や代理店で利用する場合の注意点
• 不使用取消審判との関係
などについて、実務に即して解説していきます。
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