著作権(第2回)著作権の種類と範囲(前編):支分権の詳細

第2回 著作権の種類と範囲(前編):支分権の詳細
はじめに
 前回は、著作権の基本的な定義、保護の対象となる著作物、そして著作権の発生要件について解説しました。今回は、著作権が具体的にどのような権利の束として構成されているのか、その中核となる「支分権」に焦点を当てて詳しく見ていきましょう。
 著作権は、一つの包括的な権利のように捉えられがちですが、実際には、著作物を様々な方法で利用する権利が細かく分かれた形で存在しています。これらの個々の権利を理解することは、著作物の適切な利用と保護のために非常に重要です。本稿では、主要な支分権の種類とその内容について、具体例を交えながら解説していきます。
1. 複製権
(1)複製とは
複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により、有形的に再製することをいいます(著作権法第2条第1項第15号)。デジタルデータとしての記録や、それをサーバーにアップロードすることも複製に含まれます。
(2)複製権の内容
複製権は、著作物を有形的に再製する権利を専有するものです(著作権法第21条)。つまり、著作権者は、自身の著作物をコピーしたり、印刷したり、録音・録画したりする権利を独占的に持ち、他者が無断で行うことを禁止できます。
(3)具体例
• 書籍をコピー機でコピーする行為
• 音楽CDをパソコンに取り込み、別の記録媒体に保存する行為
• ウェブサイトの画像をダウンロードして自分のパソコンに保存する行為
• 映画をDVDにダビングする行為
• 小説を電子書籍として配信するためにサーバーにアップロードする行為


2. 上演権・演奏権
(1)上演・演奏とは
上演とは、著作物を公衆に直接見せまたは聞かせること(演奏を除く。)をいい(著作権法第2条第1項第16号)、演奏とは、音楽の著作物を演奏(歌唱を含む。)により公衆に聞かせることをいいます(同項第17号)。
(2)上演権・演奏権の内容
上演権は、演劇や舞踊などの著作物を公に上演する権利を専有するものであり(著作権法第22条)、演奏権は、音楽の著作物を公に演奏する権利を専有するものです(著作権法第23条第1項)。ここでいう「公衆」とは、特定かつ少数の者を除いた不特定多数の人々を指します。
(3)具体例
• 劇団が戯曲を舞台で上演する行為(上演権)
• オーケストラが楽曲をコンサートホールで演奏する行為(演奏権)
• 歌手がライブハウスで歌を歌う行為(演奏権)
• ダンスグループが創作ダンスを披露する行為(上演権)


3. 上映権
(1)上映とは
上映とは、著作物を映写幕その他の物に映写することをいいます(著作権法第2条第1項第17号)。映画の著作物だけでなく、写真や絵画などをスクリーンに映し出す行為も含まれます。
(2)上映権の内容
上映権は、映画の著作物を再生したり、映画以外の著作物を公に映写したりする権利を専有するものです(著作権法第22条の2)。
(3)具体例
• 映画館で映画をスクリーンに映写する行為
• 美術館で写真のスライドショーを上映する行為
• 学校の授業で教育目的のビデオをプロジェクターで映写する行為


4. 公衆送信権等
(1)公衆送信とは
公衆送信とは、放送、有線放送またはインターネットその他の電気通信回線を通じて公衆に送信することをいいます(著作権法第2条第1項第7号の2)。
(2)公衆送信権の内容
公衆送信権は、著作物を公衆送信する方法により公衆に提供する権利を専有するものです(著作権法第23条第1項)。さらに、送信された著作物を公衆の受信設備を用いて受信させる権利(受信装置を通じて伝達する権利)も含まれます(同条第2項)。
公衆送信は、さらに以下の種類に分けられます。
① 放送:無線通信の送信(有線放送を除く。)であって、公衆によって直接受信されることを目的とするもの(著作権法第2条第1項第8号)。テレビやラジオの放送が該当します。 ② 有線放送:有線電気通信設備の送信であって、公衆によって直接受信されることを目的とするもの(著作権法第2条第1項第9号の2)。ケーブルテレビなどが該当します。 ③ インターネット送信:インターネットなどの電気通信回線を通じて著作物を送信し、公衆がアクセス可能にする行為。ウェブサイトへの掲載、動画共有サイトへのアップロード、音楽のストリーミング配信などが該当します。
(3)具体例
• テレビ局がドラマを放送する行為(放送)
• ケーブルテレビ局が映画を配信する行為(有線放送)
• 個人のウェブサイトに自作のイラストを掲載する行為(インターネット送信)
• 動画共有サイトに自作の音楽をアップロードする行為(インターネット送信)
• 音楽ストリーミングサービスが楽曲を配信する行為(インターネット送信)


5. 口述権・展示権
(1)口述・展示とは
口述とは、言語の著作物を朗読、演述その他の方法により公衆に伝達することをいい(著作権法第2条第1項第18号、第24条)、展示とは、美術の著作物またはまだ発行されていない写真の著作物を公衆に提示することをいいます(著作権法第25条)。
(2)口述権・展示権の内容
口述権は、言語の著作物を公に口頭で伝達する権利を専有するものであり(著作権法第24条)、展示権は、美術の著作物や未発行の写真の著作物を公に展示する権利を専有するものです(著作権法第25条)。
(3)具体例
• 講演会で小説を朗読する行為(口述権)
• 美術館で絵画を展示する行為(展示権)
• 写真家が個展で未発表の写真を展示する行為(展示権)


むすび
 今回は、著作権を構成する主要な支分権、すなわち複製権、上演権・演奏権、上映権、公衆送信権等、口述権、展示権について詳しく解説しました。これらの権利は、著作物の様々な利用形態に対応して、著作者に独占的な権利を付与するものです。
 次回は、著作権のもう一つの重要な側面である「著作人格権」について解説します。財産的な権利である支分権とは性質の異なる、著作者の名誉や感情を守るための権利について理解を深めていきましょう。

2025年05月23日