著作権(第6回)著作権とフェアユース:自由に使っていい場合とは?(後編:引用・転載のルール)
第6回 著作権とフェアユース:自由に使っていい場合とは?(後編:引用・転載のルール)
はじめに
前回は、著作権の制限規定の中でも重要な、私的使用のための複製、図書館等における複製、引用、営利を目的としない上演等について解説しました。今回は、引き続き著作権法における主要な権利制限規定を取り上げ、特に、教育目的の利用や報道目的の利用、そして適法な引用・転載を行うための具体的なルールと注意点について掘り下げていきます。
著作物を円滑に利用するためには、これらの権利制限規定を正しく理解し、著作権者の権利を侵害しない範囲で適切に活用することが重要です。
1. 教育目的の利用(著作権法第33条、第34条、第35条)
著作権法は、教育の現場における著作物の利用について、いくつかの特別な規定を設けています。
(1)教科書等への掲載(著作権法第33条)
① 条文の概要
学校教育の目的のために、検定教科書や教育課程の基準に準拠した教材に著作物を掲載する場合、著作権者の許諾は原則として不要です。ただし、著作権者は著作物の種類や用途に応じて、相当な額の補償金を受ける権利があります。
② 掲載の範囲と条件
掲載できるのは、教育に必要な範囲内に限られます。また、著作物の種類(例:小説、音楽、美術)によって、掲載できる範囲や条件が異なる場合があります。
(2)学校その他の教育機関における複製等(著作権法第35条)
① 条文の概要
学校や教育機関の教員や学生が、授業の目的で著作物を複製したり、公衆送信(インターネット等を利用した送信)したりする場合、一定の条件の下で著作権者の許諾は不要です。ただし、権利者への補償金制度があります。
② 利用の範囲と条件
• 授業の目的: 利用は、直接的な授業活動に関連するものでなければなりません。
• 必要と認められる限度: 複製や公衆送信は、授業に必要な範囲内に限られます。著作物全体を無制限に複製したり、広範囲に送信したりすることは認められません。
• 無償であること: 受講者から対価を徴収して利用する場合は、原則としてこの規定は適用されません。
• 出所の明示: 複製物や送信する際には、著作物の出所を明示する義務があります。
• 相当な額の補償金: 令和2年の著作権法改正により、オンライン授業などにおける公衆送信についても補償金制度が導入されました。
③ 具体例
• 教員が授業で使うために、教科書の一部をコピーして配布する行為
• 大学の講義で、参考文献の一部をスキャンして学生に限定公開する行為(補償金支払いが必要)
• オンライン授業で、教材として動画の一部を限定配信する行為(補償金支払いが必要)
2. 報道目的の利用(著作権法第39条、第41条)
著作権法は、報道の自由を確保するため、報道目的での著作物の利用についても特別な規定を設けています。
(1)時事の事件の報道(著作権法第39条)
① 条文の概要
新聞、雑誌、放送などの報道機関が、時事の事件を報道する目的で、事件の内容を構成する著作物(写真、映像、記事など)を複製したり、公衆送信したりする場合、著作権者の許諾は原則として不要です。
② 利用の範囲と条件
• 時事の事件の報道: 対象は、社会的な関心を集める事実や出来事の報道に限られます。
• 正当な目的: 報道という正当な目的のために利用される必要があります。
• 必要と認められる限度: 利用は、報道に必要な範囲内に限られます。
• 出所の明示: 著作物を利用する際には、出所を明示する義務があります。
(2)政治、経済、社会的事事に関する論説の転載等(著作権法第41条)
① 条文の概要
新聞や雑誌に掲載された、政治、経済、社会的事事に関する論説は、他の新聞や雑誌に転載したり、放送したりすることができます。ただし、著作権者が転載等を禁止する旨の表示をしている場合はこの限りではありません。
② 利用の範囲と条件
• 対象となる著作物: 政治、経済、社会的事事に関する論説に限られます。
• 転載等の媒体: 新聞、雑誌、放送に限られます。ウェブサイトへの転載などは、原則として著作権者の許諾が必要です。
• 転載禁止の表示がないこと: 著作物に転載等を禁止する旨の表示がない場合に限ります。
• 出所の明示: 転載等を行う際には、出所を明示する義務があります。
3. 適法な引用・転載のためのルールと注意点
前回と今回にわたり解説した「引用」(著作権法第32条)は、著作物を適法に利用するための重要な手段の一つです。改めて、適法な引用・転載を行うための主要なルールと注意点を確認しましょう。
(1)引用のルール(再確認)
① 引用の目的の正当性: 報道、批評、研究など、明確で正当な目的が必要です。 ② 引用部分の必然性: 自分の著作物を補強したり、説明したりするために、引用が不可欠である必要があります。
③ 主従関係の明確性: 引用される著作物が、自分の著作物の中であくまで従たる部分であり、主体と客体の関係が明確である必要があります。自分の著作物が主体であり、引用部分がその一部として組み込まれている状態が理想的です。
④ 量の制限: 引用する量は、目的を達成するために必要最小限であるべきです。過度な引用は、著作権侵害とみなされる可能性があります。 ⑤ 出所の明示:
引用箇所が明確に区別され、引用元(著作者名、作品名、媒体名など)が明示されている必要があります。
(2)転載の注意点
「転載」という言葉は、著作権法上明確に定義されているわけではありませんが、一般的には、他者の著作物の全部または一部を、自身の著作物や媒体に掲載することを指します。
• 原則として許諾が必要: 著作物の転載は、複製権や公衆送信権などの著作権者の権利に抵触する行為であり、原則として著作権者の許諾が必要です。
• 引用との違いを意識する: 引用は、自身の著作物を補強するための従たる利用であるのに対し、転載は、他者の著作物を独立して利用する意味合いが強いため、より慎重な判断が必要です。
• 著作権表示の確認: ウェブサイトや書籍などに「無断転載禁止」などの表示がある場合は、転載は原則として認められません。
• 著作権管理団体の利用許諾: 音楽や映像などの著作物については、著作権管理団体が包括的な利用許諾を行っている場合があります。利用を検討する際には、これらの団体のウェブサイトなどを確認することが有効です。
むすび
今回は、著作権の制限規定の中でも、教育目的の利用と報道目的の利用について解説しました。また、適法な引用・転載を行うための重要なルールと注意点について改めて確認しました。
著作権法における権利制限規定は、著作物の円滑な利用と文化の発展に寄与する重要な役割を果たしています。しかし、その適用範囲は限定的であり、誤った理解や安易な利用は著作権侵害につながる可能性があります。著作物を利用する際には、これらの規定を正しく理解し、慎重な判断を心がけることが重要です。
次回のテーマは「デジタル時代の著作権:インターネットとSNSでの適用(前編:インターネット上の問題)」です。インターネットやSNSといったデジタル環境における著作権の課題や、注意すべき点について解説していきます。