著作権(第8回)デジタル時代の著作権(後編):SNS・二次創作の課題

第8回 デジタル時代の著作権(後編):SNS・二次創作の課題
はじめに
 前回は、デジタル時代の著作権の前編として、インターネット上における著作権侵害の現状や、違法アップロード・ダウンロードの問題、そしてリンクや埋め込みに関する著作権の考え方について解説しました。今回は、デジタル時代の著作権の後編として、特にソーシャルネットワーキングサービス(SNS)における著作権の課題と、近年活発な創作活動となっている二次創作における著作権の考え方について掘り下げていきます。
 SNSは、誰もが手軽に情報発信や共有を行える便利なツールですが、その一方で、著作権侵害のリスクも孕んでいます。また、既存の著作物を基に新たな創作を行う二次創作は、ファンコミュニティを活性化させる一方で、著作権者との間でしばしば法的問題を引き起こします。これらの課題について、具体的な事例を交えながら解説していきます。


1. SNSにおける著作権の課題
(1)無断での投稿・共有
① 写真や動画の無断アップロード
 SNS上では、他人が撮影した写真や作成した動画を、あたかも自分が作成したかのように無断で投稿するケースが後を絶ちません。これらの行為は、複製権や公衆送信権を侵害する明白な著作権侵害です。
② 音楽や映像の違法共有
 音楽ファイルや映画、アニメなどの映像コンテンツを、権利者の許諾なくSNS上で共有する行為も、著作権侵害に該当します。たとえ個人的な範囲での共有であっても、不特定多数の人がアクセスできる状態にする行為は、公衆送信に該当する可能性があります。
③ 他のウェブサイトからの無断転載
 ニュース記事、ブログ記事、イラストなどを、出典を明示せずにSNSに転載する行為も、著作権侵害となる場合があります。引用の要件を満たさない転載は、著作権者の許諾が必要です。
(2)アイコンやヘッダー画像の問題
① 他の著作物の無断利用
 SNSのプロフィール画像(アイコン)やヘッダー画像に、他人が作成したイラストや写真、キャラクターなどを無断で使用する行為は、著作権侵害となる可能性があります。たとえインターネット上で公開されている画像であっても、著作権者の許諾なしに利用することは原則として認められません。
② フリー素材の利用
 著作権フリーやライセンスに基づいて利用が許可されている素材を使用する場合は問題ありませんが、利用規約をしっかりと確認し、定められた範囲内で利用することが重要です。
(3)リツイートやシェアの法的解釈
① 単なるリツイート・シェア
 SNSの機能であるリツイートやシェアは、一般的には著作権侵害には該当しないと考えられています。これは、元の投稿へのリンクを提供しているに過ぎず、コンテンツの複製や公衆送信を直接行っているわけではないと解釈されるためです。
② 違法コンテンツのリツイート・シェア
 ただし、元の投稿が明らかに違法な著作物(例:違法アップロードされた動画や画像)である場合、その違法性を認識しながらリツイートやシェアを行う行為は、著作権侵害を助長する行為として、法的責任を問われる可能性があります。


2. 二次創作における著作権の考え方
(1)二次創作とは
 二次創作とは、既存の著作物(漫画、アニメ、ゲーム、小説など)を基にして、ファンが新たな作品を創作する活動の総称です。同人誌、ファンアート、コスプレ、MAD動画、ゲームの改造などがこれに該当します。
(2)著作権法上の原則
 著作権法上、二次創作は、元の著作物の「翻案」(著作権法第27条)に該当する可能性が高く、原則として元の著作物の著作権者の許諾が必要です。著作権者は、自分の著作物をどのように利用させるかを決定する権利を専有しているため、無断で二次創作を行うことは著作権侵害となる可能性があります。
(3)権利者の黙認とガイドライン
 実際には、多くの著作権者が、非営利目的のファンによる二次創作活動を黙認している現状があります。これは、ファンコミュニティの活性化や作品への関心を高める効果があるためと考えられます。
しかし、近年では、二次創作活動が活発化する中で、著作権者とファンとの間で法的トラブルが発生するケースも出てきています。そのため、一部の著作権者は、二次創作に関するガイドラインを公開し、許容される範囲や禁止事項を明確にしています。二次創作を行う際には、これらのガイドラインを必ず確認し、著作権者の意向を尊重することが重要です。
(4)営利目的の二次創作
 営利目的で二次創作を行う場合は、原則として著作権者の許諾が必須となります。同人誌の販売、ファンアートのグッズ販売、ゲームの改造データの販売などは、著作権侵害となる可能性が高いため、事前に権利者との間でライセンス契約を結ぶなどの手続きが必要となります。
(5)キャラクターの利用
 既存のキャラクターを二次創作に利用する場合、著作権だけでなく、商標権の問題も生じる可能性があります。キャラクターは、商品の識別標識として商標登録されている場合があり、無断で商品などに使用すると商標権侵害となることがあります。


3. SNS・二次創作における著作権侵害を防ぐために
(1)投稿・共有する際の注意点
 ① 権利者の許諾を得る:他者の著作物をSNSに投稿・共有する際には、事前に権利者の許諾を得るのが原則です。 ② 出典を明示する:引用を行う場合は、著作物の出所を正確に明示しましょう。 ③ 違法コンテンツに関わらない:違法にアップロードされたコンテンツをダウンロードしたり、SNSで共有したりすることは避けましょう。 ④ 利用規約を確認する:SNSプラットフォームの利用規約や、画像・音楽配信サービスの利用規約をよく読み、ルールを守って利用しましょう。
(2)二次創作を行う際の注意点
 ① 権利者のガイドラインを確認する:二次創作を行う前に、元の著作物の権利者が公開しているガイドラインを必ず確認しましょう。 ② 非営利目的を原則とする:営利目的の二次創作は、原則として権利者の許諾が必要です。 ③ 過度な改変を避ける:元の著作物の本質的な部分を大きく改変する行為は、同一性保持権を侵害する可能性があります。 ④ 公式コンテンツと混同させない:二次創作物を、公式のコンテンツであるかのように誤解させるような表現は避けましょう。 ⑤ 不安な場合は権利者に確認する:二次創作の範囲について不明な点がある場合は、権利者に直接問い合わせるのが最も確実な方法です。


むすび
 今回は、デジタル時代の著作権の後編として、SNSにおける著作権の課題と、二次創作における著作権の考え方について解説しました。SNSや二次創作は、現代のインターネット文化において重要な役割を果たしていますが、著作権とのバランスを保ちながら活動することが求められます。
著作権に関する正しい知識を持ち、権利者の意向を尊重することで、クリエイターとファン双方にとって健全なデジタル環境を築いていくことが重要です。
 次回のテーマは「クリエイターと著作権:自分の権利を守るために必要なこと」です。自身の創作物を守るために、クリエイターが知っておくべき著作権の知識や、具体的な対策について解説していきます。

2025年06月27日