著作権(第7回)デジタル時代の著作権(前編):インターネット上の問題
第7回 デジタル時代の著作権(前編):インターネット上の問題
はじめに
前回は、著作権の制限規定である「フェアユース」について、前後編にわたり詳しく解説しました。今回は、現代社会においてますます重要性を増している「デジタル時代の著作権」、特にインターネット上での著作権に関する様々な問題に焦点を当てていきます。
インターネットの普及により、私たちは容易に世界中の情報にアクセスし、コンテンツを共有できるようになりました。しかし、この利便性の裏側で、著作権を巡る新たな課題も数多く生まれています。本稿では、インターネット上での著作権侵害の現状、違法アップロードやダウンロードの問題、そしてリンクや埋め込みといった行為における著作権の考え方について解説していきます。
1. インターネットにおける著作権侵害の現状
(1)蔓延する違法コンテンツ
インターネット上では、音楽、映画、アニメ、ゲーム、書籍、画像など、様々な著作物が無断でアップロードされ、公開されています。これらの違法コンテンツは、ファイル共有ソフト、違法ストリーミングサイト、SNSなどを通じて容易にアクセス可能であり、深刻な著作権侵害を引き起こしています。
(2)権利者への経済的損失
違法アップロードやダウンロードは、著作権者や関連事業者の正当な収益機会を奪い、コンテンツ産業の健全な発展を阻害する大きな要因となっています。特に、映画や音楽などのエンターテインメント分野においては、違法配信による損害額が巨額に上ることも少なくありません。
(3)悪質な侵害の手口
近年では、単なる個人的な共有にとどまらず、営利目的で組織的に違法コンテンツを配信するケースも増加しています。海賊版サイトの運営、違法ダウンロードを誘引する広告、著作権侵害コンテンツを販売する行為など、その手口は巧妙化・悪質化しています。
2. 違法アップロードとダウンロードの問題
(1)違法アップロード
① アップロード行為と著作権侵害
著作物を著作権者の許諾なくインターネット上にアップロードする行為は、公衆送信権(送信可能化権を含む)を侵害する行為に該当します(著作権法第23条)。これは、個人的な利用のために作成した複製物であっても同様です。
② アップロード者の責任
違法にアップロードされたコンテンツは、不特定多数の人が容易にアクセスできるようになり、さらなる複製や拡散を招く可能性があります。アップロード者は、著作権侵害の責任を問われるだけでなく、刑事罰の対象となる場合もあります(著作権法第119条)。
(2)違法ダウンロード
① ダウンロード行為と著作権侵害
著作権法では、違法にアップロードされた著作物を、それが違法であることを知りながらダウンロードする行為は、私的使用目的であっても著作権侵害となります(著作権法第30条第1項第2号)。
② ダウンロード者の責任
違法ダウンロードは、権利者の経済的利益を損なう行為であり、著作権侵害として法的責任を問われる可能性があります。また、悪質な海賊版サイトからダウンロードしたファイルには、ウイルスなどの不正プログラムが仕込まれているリスクもあり、セキュリティ上の問題も引き起こしかねません。
③ 合法的なダウンロードサービス
現在では、音楽配信サービス、動画ストリーミングサービス、電子書籍ストアなど、多くの合法的なダウンロード・ストリーミングサービスが存在します。これらのサービスを利用することで、適法かつ安全にコンテンツを楽しむことができます。
3.リンクと埋め込みにおける著作権の考え方
(1)単純なリンク
① リンク行為と著作権侵害の原則
一般的に、ウェブサイトのトップページや個別のコンテンツへの単純なリンク(ハイパーリンク)を貼る行為は、それ自体が著作権侵害になるとは解釈されていません。リンクは、あくまで情報の所在を示すものであり、著作物の複製や公衆送信には該当しないと考えられています。
② 例外的に侵害となる可能性
ただし、リンクの方法や目的によっては、著作権侵害となる可能性も否定できません。例えば、あたかも自分のコンテンツであるかのように誤認させるようなリンクの貼り方や、違法にアップロードされたコンテンツへのアクセスを容易にする悪質なリンクなどは、権利侵害を幇助する行為とみなされる場合があります。
(2)埋め込み(エンベッド)
① 埋め込み行為と著作権
YouTubeなどの動画共有サイトやSNSで提供されている埋め込み機能を利用して、他のウェブサイトのコンテンツを自分のウェブサイトやSNSに表示する行為(エンベッド)は、一般的に著作権侵害には該当しないと考えられています。
② その理由
埋め込みは、元のウェブサイトに存在するコンテンツを、あたかも自分のサイトの一部のように表示させる技術ですが、実際にはコンテンツの複製やサーバーへのアップロードを行っているわけではありません。コンテンツの配信主体は依然として元のウェブサイトであり、埋め込みを行う側は、そのコンテンツへのアクセスを容易にしているに過ぎないと考えられています。
③ 注意点
ただし、埋め込まれているコンテンツ自体が違法にアップロードされたものである場合、その違法性を知りながら埋め込みを行う行為は、権利侵害を助長する行為とみなされる可能性があります。また、埋め込み表示の方法によっては、著作権者の意図しない利用を招く可能性もあるため、注意が必要です。
4. プロバイダ責任制限法
(1)プロバイダの責任
インターネットサービスプロバイダ(ISP)やウェブサイトの管理者などは、利用者が行う著作権侵害行為に対して、原則として直接的な責任を負いません。しかし、「プロバイダ責任制限法」に基づき、一定の条件を満たす場合には、権利者からの請求に応じて、侵害情報の削除や発信者情報の開示に応じる義務を負うことがあります。
(2)侵害情報の削除請求
著作権者は、自身の著作物が無断でアップロードされている場合、プロバイダに対して、その情報の削除を請求することができます。プロバイダは、請求の正当性を確認した後、必要に応じて情報の削除を行います。
(3)発信者情報開示請求
著作権者は、違法アップロードを行った者の特定が困難な場合、プロバイダに対して、発信者の氏名や住所などの情報開示を請求することができます。ただし、開示請求が認められるためには、一定の要件を満たす必要があります。
むすび
今回は、デジタル時代の著作権、特にインターネット上での著作権に関する様々な問題について解説しました。違法アップロードやダウンロードは、著作権侵害の深刻な問題であり、法的責任を問われる可能性があります。一方、リンクや埋め込みといった行為については、原則として著作権侵害には該当しないと考えられていますが、その方法や目的によっては注意が必要です。
インターネットを安全かつ適法に利用するためには、著作権に関する正しい知識を持つことが不可欠です。次回は、「デジタル時代の著作権(後編):SNS・二次創作の課題」と題して、SNSにおける著作権の問題や、二次創作における著作権の考え方について詳しく解説していきます。