著作権(第4回)著作権の保護期間と更新:いつまで守られるのか?

第4回 著作権の保護期間と更新:いつまで守られるのか?

はじめに
 前回までは、著作権がどのような権利であり、どのような種類があるのかについて解説してきました。今回は、著作権がいつまで保護されるのか、その期間について詳しく見ていきましょう。著作権は、創作されたら永久に保護されるわけではありません。法律によって定められた保護期間が存在し、その期間が満了した著作物は、原則として誰でも自由に利用できる「パブリックドメイン」の状態になります。
 著作権の保護期間は、著作物の種類や著作者の状況によって異なる複雑なルールが存在します。本稿では、現行法における著作権の保護期間の原則、起算点、そして保護期間満了後の著作物の扱いについて解説していきます。


1. 著作権の保護期間の原則
(1)著作者がいる場合
 ① 個人の著作者による著作物
 個人の著作者が創作した著作物の著作権は、著作者の生存期間とその死後70年間保護されます(著作権法第51条第2項)。これは、国際的な保護期間の調和の流れを受けた改正により、以前の死後50年から延長されたものです。
 ② 共同著作物
 複数の著作者が共同で創作した著作物(共同著作物)の著作権は、最後に死亡した著作者の死後70年間保護されます(著作権法第52条第1項)。
(2)著作者がいない場合(法人著作物など)
 ① 法人その他の団体が著作名義を有する著作物
 映画の著作物を除く、法人や団体が著作名義を有する著作物(例:会社が作成したパンフレット、ソフトウェアなど)の著作権は、公表されたときから70年間保護されます(著作権法第53条第1項)。創作されてから70年以内に公表されなかった場合は、創作のときから70年間保護されます(同条第2項)。
 ② 映画の著作物
 映画の著作物の著作権は、公表されたときから70年間保護されます(著作権法第54条第1項)。創作されてから70年以内に公表されなかった場合は、創作のときから70年間保護されます(同条第2項)。映画の著作物については、監督、脚本家、撮影者、美術担当者、音楽家など、多くの著作者が関わることが多いため、他の著作物とは異なる規定が設けられています。
 ③ 著作名義がない著作物
 著作者が誰であるか不明な著作物(例:無名または変名で公表された著作物で、著作者が不明なもの)の著作権は、公表されたときから70年間保護されます(著作権法第53条第3項)。創作されてから70年以内に公表されなかった場合は、創作のときから70年間保護されます(同条第4項)。ただし、保護期間中に著作者が判明した場合は、原則として個人の著作者の著作物としての保護期間が適用されます。


2. 保護期間の起算点
 著作権の保護期間の起算点は、著作物の種類や著作者の状況によって異なります。
(1)個人の著作者の著作物:著作者が死亡した日の属する年の翌年の1月1日から起算されます。
(2)共同著作物:最後に死亡した著作者が死亡した日の属する年の翌年の1月1日から起算されます。
(3)法人著作物、映画の著作物、著作名義がない著作物:公表された日の属する年の翌年の1月1日、または創作 された日の属する年の翌年の1月1日から起算されます(未公表の場合)。
このように、保護期間の起算点は、著作物が公になった時点、または著作者の死亡時点の翌年の1月1日となるため、注意が必要です。


3. 保護期間の更新
 かつて米国では、一定の条件の下で著作権の保護期間を更新できる制度が存在しました。しかし、わが国では保護期間の更新制度はありません。2018年12月30日から施行された改正法により保護期間が50年から70年に延長されましたが、一度定められた保護期間が満了すると、その著作物はパブリックドメインとなり、著作権者の許諾なしに自由に利用できるようになります。


4. 保護期間満了後の著作物(パブリックドメイン)
(1)パブリックドメインとは
著作権の保護期間が満了した著作物は、「パブリックドメイン」の状態になります。これは、著作権による制限が消滅し、誰でも自由に複製、上演、上映、公衆送信、翻訳、翻案などの利用ができるようになることを意味します。
(2)パブリックドメインの意義
 パブリックドメインとなった著作物は、人類共通の文化遺産として、教育、研究、創作活動など、様々な分野で自由に活用することができます。これにより、新たな文化創造の促進や、知識の普及に貢献することが期待されます。
(3)利用上の注意点
 著作権の保護期間が満了しても、著作者人格権は著作者の死後も一定の範囲で保護されます(著作権法第60条)。したがって、パブリックドメインとなった著作物を利用する際も、著作者の名誉や声望を害するような方法での利用は避けるべきです。例えば、著作者の意図を大きく歪めるような改変や、著作者を誹謗中傷するような利用は、不法行為となる可能性があります。
また、著作物によっては、著作権以外の権利(例えば、商標権など)が付随している場合もありますので、注意が必要です。


5. 保護期間に関する国際的な動向
 著作権の保護期間は、国によって異なる場合があります。しかし、ベルヌ条約などの国際的な条約により、多くの国で保護期間の調和が進められています。現在、多くの国で、個人の著作者の著作物については著作者の死後70年間、法人著作物などについては公表後70年間という保護期間が採用されています。
国際的なビジネスや著作物の利用においては、それぞれの国の著作権法における保護期間を確認することが重要です。


むすび
 今回は、著作権の保護期間について、原則的な期間、起算点、更新の有無、そして保護期間満了後の著作物(パブリックドメイン)の扱いについて解説しました。著作権の保護期間は、著作物の種類や著作者の状況によって異なるため、正確な理解が必要です。保護期間が満了した著作物は、私たちの文化的な共有財産として、有効に活用していくことが重要と言えるでしょう。
 次回のテーマは「著作権とフェアユース:自由に使っていい場合とは?(前編:条文ごとの詳細解説)」です。著作権が及ぶ範囲には例外があり、一定の条件下では著作権者の許諾なしに著作物を利用できる場合があります。その代表的な概念である「フェアユース」について、詳しく解説していきます。

2025年06月06日