著作権(第13回)AIと著作権:自動生成コンテンツの権利問題
第13回 AIと著作権:自動生成コンテンツの権利問題
はじめに
前回は、国際的な著作権の違いと保護について解説しました。今回は、近年急速に発展している人工知能(AI)が生成するコンテンツと著作権の関係について掘り下げていきます。
AI技術の進化により、文章、音楽、画像、プログラムなど、様々な種類のコンテンツをAIが自動的に生成することが可能になってきました。しかし、これらのAI生成物について、誰が著作権を持つのか、学習に用いられた既存の著作物との関係はどうなるのかなど、多くの法的課題が浮上しています。本稿では、AIによるコンテンツ生成の現状、著作権法上の基本的な考え方、そして今後の法改正の可能性について解説していきます。
1. AIによるコンテンツ生成の現状
(1)多様なAI生成コンテンツ
現在のAI技術は、特定の指示や学習データに基づいて、人間が創作したかのような高度なコンテンツを生成することができます。
① テキスト生成AI:小説、記事、詩、脚本、翻訳などを自動生成します。 ② 音楽生成AI:楽曲、効果音、BGMなどを自動生成します。 ③ 画像生成AI:イラスト、写真、絵画などを自動生成します。
④ プログラム生成AI:ソフトウェアのコードの一部または全部を自動生成します。
(2)AI生成コンテンツの利用拡大
AIによって生成されたコンテンツは、広告、エンターテインメント、教育、研究など、様々な分野で利用が拡大しています。その効率性や創造性において、人間のクリエイターをサポートする、あるいは代替する可能性も示唆されています。
2. 著作権法上の基本的な考え方
日本の著作権法における著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)と定義されています。この定義に照らし合わせると、AIが生成したコンテンツの著作権の帰属については、いくつかの議論があります。
(1)AIは「著作者」になれるか?
現行の著作権法では、「著作者」は人間であることを前提としています。AIは、プログラムに基づいてデータ処理を行うツールであり、自らの意思や感情に基づいて創作活動を行っているとは考えられていません。したがって、AI自身が著作物の著作者となることは、現時点では難しいと考えられています。
(2)AIの利用者の著作権
AIを利用してコンテンツを生成した場合、その生成物の著作権が誰に帰属するのかが問題となります。一般的には、AIに対して具体的な指示を与え、最終的な生成物を選択・調整するなど、創作的な関与を行った人間が著作者となると考えられています。
① 単なる指示の場合:AIにキーワードや簡単な指示を与えただけで生成されたコンテンツについては、利用者の創作性が乏しいと判断され、著作物として保護されない、または保護されても範囲が限定的となる可能性があります。
② 選択・調整を行った場合:AIが生成した複数の候補から選択したり、生成されたコンテンツに大幅な修正や加工を加えたりするなど、利用者の創作的な判断や表現が色濃く反映されている場合は、利用者が著作者となると考えられます。
(3)学習データと著作権侵害
AIがコンテンツを生成する際には、大量の既存の著作物を学習データとして利用することが一般的です。この学習データの利用が、著作権侵害にあたるかどうかも重要な問題です。
① 学習データの利用:著作権法第30条の4では、情報解析の目的で行われる著作物の利用(複製、公衆送信など)について、一定の条件の下で権利者の許諾なしに行うことができると規定されています。AIの学習はこの情報解析に該当すると考えられており、適法に行われる限り、著作権侵害にはあたらないと解釈されています。
② 生成物の類似性:ただし、AIが学習データに依拠して生成したコンテンツが、既存の著作物と類似する場合、著作権侵害となる可能性は否定できません。特に、特定の著作物を模倣するよう意図的にAIを操作した場合などは、注意が必要です。
3. 各国における議論と動向
A I生成コンテンツの著作権に関する議論は、世界各国で活発に行われています。
(1)アメリカ
アメリカでは、著作権の対象となるのは人間の著作者によるオリジナルの著作物であるという原則が明確に示されています。著作権庁は、AIのみによって生成された画像については著作権登録を認めないという判断を示しています。
(2)EU
EUでは、著作権法は人間の著作者による創作物を保護することを前提としていますが、AI生成物の権利帰属については、国によって解釈が分かれています。著作権法とは異なる新たな権利を創設する議論も存在します。
(3)イギリス
イギリスでは、コンピュータが著作物を生成した場合、その生成に必要な手配をした者が著作者となるとする規定が存在します(著作権、意匠及び特許法第9条第3項)。ただし、この規定がAIによる高度な自動生成にそのまま適用できるかについては議論があります。
4. 今後の法改正の可能性
AI技術の急速な発展を踏まえ、AI生成コンテンツの著作権に関する法制度の見直しは、今後不可避となる可能性があります。
(1)新たな保護の枠組み
AI生成物の特性を踏まえ、現行の著作権法とは異なる新たな保護の枠組みを設けるという議論があります。例えば、AIの開発者や利用者に、一定の範囲で権利を付与するなどの案が考えられます。
(2)学習データの利用ルールの明確化
AIの学習における著作物の利用範囲や条件について、より明確なルールを定めることが求められています。権利者への適切な対価還元についても議論が必要となるでしょう。
(3)侵害責任の所在
AIが生成したコンテンツが既存の著作物を侵害した場合、誰が責任を負うのか(AIの開発者、利用者、AI自体か)についても、法的な解釈やルールの整備が課題となります。
(4)国際的な連携
AI技術は国境を越えて発展しているため、AI生成コンテンツの著作権に関する国際的な議論や連携が不可欠です。各国が協調して、適切なルール作りを進めていく必要があります。
むすび
今回は、AIと著作権、特にAIが自動生成するコンテンツの権利問題について解説しました。現時点では、AI自身が著作権を持つことは難しいと考えられていますが、AIの利用者が創作的に関与した場合には、その利用者に著作権が認められる可能性があります。学習データの利用や生成物の類似性など、解決すべき課題は多く、今後の法制度の動向が注目されます。
AI技術の発展は、著作権制度に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。クリエイター、事業者、そして法律家が協力して、技術の進歩と著作権保護のバランスの取れた未来を築いていくことが重要となるでしょう。
次回のテーマは「未来の著作権:ブロックチェーン、NFT、そしてデジタル資産の保護」です。ブロックチェーン技術やNFT(ノンファンジブルトークン)が、著作権の管理やデジタル資産の保護にどのような影響を与える可能性があるのか、その未来の展望について考察していきます。