商標:不使用取消審判(第2回)

第2回:誰が、いつ、何のために仕掛けてくるのか

1.不使用取消審判は「誰でも請求できる」制度
(1)請求人に制限はない(商標法第50条)
 不使用取消審判は、利害関係の有無を問わず「何人も(誰でも)」請求することができます。
(2)想定される請求人の例
 実務上は、次のような主体が請求を行います。
 ① 同業の競合企業
 ② 新規参入を検討している企業・スタートアップ
 ③ 商標登録を目指す個人事業主
 ④ 直接の競合ではない第三者
(3)経営上の留意点
 「あの会社とは競合していないから大丈夫」という前提は成り立ちません。
 自社商標を使用したいと考える者であれば、誰でも請求し得る点に注意が必要です。
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2.「継続して3年以上不使用」の判断枠組み
(1)取消要件の基本構造
 不使用取消審判では、次の要件が満たされるかが判断されます。
 ① 継続して3年以上
 ② 日本国内において
 ③ 指定商品又は指定役務について
 ④ 使用されていないこと
(2)「3年」の起算点
 この3年間は、
 審判請求の登録日から遡って判断されます(特許庁の審判実務)。
 したがって、権利者は「いつ請求されてもよい状態」を維持しておく必要があります。
(3)使用の内容に関する要件(商標法第2条第3項)
 単に使用していれば足りるわけではなく、次の点が満たされる必要があります。
 ① 日本国内での使用であること
 ② 指定商品・役務との対応関係があること
 ③ 登録商標又は社会通念上同一と認められる商標の使用であること
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3.仕掛ける側の主な動機と戦略
(1)新ブランド立ち上げの障害除去
 ① 既存の登録商標がネーミングの障害となる場合
 ② 使用実態が不明又は未使用の可能性がある場合
 このような場合、
 「使用されていないなら取消して空ける」
 という合理的判断のもとで請求が行われます。
(2)交渉を有利に進めるための手段
 商標の譲渡やライセンス交渉の場面では、次のように利用されます。
 ① 高額な譲渡対価を提示された場合
 ② 相手方が交渉に応じない場合
  (ア)不使用取消審判の請求を示唆
  (イ)実際に請求を行う
 これにより、交渉条件を引き下げる圧力として機能します。
(3)競合他社の事業活動の制約
 ① 指定商品・役務の一部について使用実態がない場合
 ② 将来の事業展開を見据えて広く権利を取得している場合
 このような部分に限定して取消しを請求することで、競合の事業拡張を抑制する戦略が採られることがあります。
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4.審判を請求された場合の主なリスク
(1)商標権の全部又は一部の消滅
 使用が証明できない指定商品・役務については、登録が取り消されます。
(2)継続使用に伴う法的リスク
 取消し後も同一商標を使用し続けた場合、他人の商標権を侵害する可能性が生じます。
 その結果、名称変更を余儀なくされることがあります。
(3)ライセンス・フランチャイズへの影響
 ① ライセンス契約の前提が崩れる
 ② ロイヤルティ収入の減少・消滅
(4)対外的信用への影響
 商標登録の取消しは、
 ① 取引先
 ② 金融機関
 等に対してネガティブな評価を与える可能性があります。
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5.実務的な対応姿勢
(1)「狙われない」という前提は採らない
 不使用取消審判は、制度上いつでも誰でも請求可能であり、特定の企業規模や業種に限定されるものではありません。
(2)取るべき基本方針
 重要なのは、
 ① 請求されないことを期待することではなく
 ② 請求されても対応できる状態を維持すること
(3)具体的な管理意識
 ① 継続的な商標の使用
 ② 使用態様の適法性の確認
 ③ 証拠資料の蓄積・保管
 これらを日常的に行うことが、最も現実的なリスク対策となります。
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6.まとめ
 不使用取消審判は、
 ① 誰でも請求でき
 ② いつでも発動され得る
 極めて実務的な制度です。
 そして、その背後には、
 新規参入・交渉・競争戦略といった明確なビジネス上の動機が存在します。
 したがって、商標権者としては、
 「偶発的なトラブル」ではなく
 「常に起こり得る経営リスク」
 として認識し、平時から備えておくことが不可欠です。


本記事についてのご相談
 「不使用取消審判」の請求側、請求された商標権者側、どちらのご相談もお受けいたします。
 商標法上の使用となっているか、指定商品・指定役務についての使用となっているか  取得したい商標の商標権が使用されているかどうかを調べたいなど、お気軽にご相談ください。

      弁理士 矢口和彦事務所

       所長弁理士 矢 口 和 彦


2026年03月27日