商標:不使用取消審判(第4回)
第4回:似て非なるものはNG?「登録商標」と「使用商標」の同一性
1.問題の所在―どの商標を使っていればよいのか
(1)不使用取消審判における判断対象
不使用取消審判では、
「登録されている商標」が使用されているかが問われます。
(2)実務上の典型的な疑問
① 登録商標と完全に一致していなければならないのか
② 実際の使用商標に多少の変更があってもよいのか
この点については、商標法上一定の柔軟性が認められていますが、無制限ではありません。
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2.「社会通念上同一」と認められる範囲
(1)法的基準
商標法の解釈上、登録商標と完全に一致しない場合であっても、「社会通念上同一と認められる商標」の使用であれば、使用と認められます(商標法第50条の運用)。
(2)一般に許容される変更の例
次のような変更は、通常、同一性を損なわないと判断される可能性が高いといえます。
① 書体(フォント)の変更
② 大文字・小文字、全角・半角の差異
③ 色彩の変更
④ 文字商標の軽微なデザイン化
(3)具体例
登録商標「ABC」に対し、
① 「abc」
② 「ABC」
③ 図案化された「ABC」
これらは、一般に同一と評価され得ます。
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3.同一性が否定されるおそれのあるケース
(1)文字構成の変更
① 一部の文字を省略する(例:「ABC」→「AB」)
② 文字を追加する(例:「ABC」→「ABCD」)
これらは、原則として別の商標と評価される可能性が高くなります。
(2)結合商標の一部のみの使用
① 登録商標が「図形+文字」で構成されている場合
② 実際には文字部分のみ、又は図形部分のみを使用
この場合、登録商標全体の使用とは認められないおそれがあります。
(3)構成・配置の大幅な変更
商標全体の印象(外観・称呼・観念)が変化する場合には、同一性が否定される可能性があります。
(4)判断基準
最終的には、
「取引者・需要者が同一の商標と認識するか」
という観点から総合的に判断されます。
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4.ロゴ商標における実務上の注意点
(1)一部使用のリスク
例えば、
① 登録商標:図形+「ABC」
② 使用商標:「ABC」のみ
この場合、登録商標は結合商標として把握されるため、一部のみの使用では登録商標の使用と認められない可能性があります。
(2)逆のケース
① 登録商標:文字商標「ABC」
② 使用商標:デザイン化された「ABC」
この場合は、文字部分が同一であるため、使用と認められる余地があります。
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5.ブランド変更・ロゴ刷新時のリスク
(1)使用の中断によるリスク
ロゴやブランドを変更した結果、旧商標の使用が停止すると、そこから3年経過後に不使用取消の対象となります。
(2)新商標との関係
新しいロゴや名称が、
① 既存の登録商標と同一といえない場合
② 新たに出願していない場合
旧商標は防御できず、新商標も権利がないという状態に陥るおそれがあります。
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6.登録と使用の不一致(いわゆる“ねじれ”)
(1)典型例
① 登録商標:創業時に作成したロゴ
② 使用商標:実務上使われている別デザイン
(2)問題点
① 登録商標は使用されていない
② 使用商標は登録されていない
この状態では、不使用取消審判において極めて不利となります。
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7.同一性判断の実務的視点
(1)主要な判断要素
① 外観(見た目)
② 称呼(読み方)
③ 観念(意味内容)
(2)総合判断
これらを踏まえ、「需要者が同一の出所を想起するか」という観点から総合的に判断されます。
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8.経営者としての対応指針
(1)登録と使用の一致を確保する
実際に使用している商標を基準として、適切に商標登録を行うことが重要です。
(2)ブランド変更時の対応
ロゴや名称を変更する場合には、
① 既存登録との同一性の検討
② 必要に応じた追加出願
を行う必要があります。
(3)複数態様の保護
① 文字商標
② ロゴ商標
など、実際の使用形態に応じて複数の商標を取得することも有効です。
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9.まとめ
不使用取消審判においては、単に使用しているか否かだけでなく、「登録商標と同一といえる形で使用されているか」が厳密に問われます。
したがって、
① 登録内容と実際の使用態様の一致
② 変更時の適切な権利整備
が、商標権を維持する上で不可欠です。
商標は、登録と実務運用が一致して初めて、安定した経営資産として機能します。
本記事についてのご相談:
「不使用取消審判」の請求側、請求された商標権者側、どちらのご相談もお受けいたします。
商標法上の使用となっているか、指定商品・指定役務についての使用となっているか、取得したい商標の商標権者が使用しているかどうかを調べたいなど、お気軽にご相談ください。
弁理士 矢口和彦事務所
所長 弁理士 矢 口 和 彦